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甲子園の風BACK NUMBER
福岡にいた「20年に1人の天才投手」なぜ地元の高校は獲得逃した? 織田翔希は北九州から横浜へ…有望中学生の県外流出ウラ側「織田の存在は知っていた」
text by

樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/09/05 11:07
中学時代、福岡で「20年に1人」の逸材といわれていた織田翔希(現・横浜)。なぜ地元の高校は獲得を逃したのか
トマスさんは中学1年生の織田を10月に発見した時「佐々木朗希2世だ!」と直観的に確信したそうだ。
「全軟北九州地区大会の準決勝。本城球場でした。1年生の右オーバーの織田投手が出てきた。直球の伸び、縦スラ、制球、フィールディング。すべてにおいて抜群。硬式含めて福岡ナンバーワン右腕だと思いました。欠点がないんです。後日観た試合でも、球数88球、13奪三振、被安打2の完封勝利。荒探しができないほどの完成度でした」
トマスさんは興奮を抑えきれず、母校・小倉高校の当時の指導者にいち早く情報を伝えた。ぜひ織田を調査するよう進言したのだ。しかし2年近く言い続けても小倉高校は動かず、けっきょく織田は進学先に横浜高校を選んだ。甲子園を目指す織田の志と、調査に動かなかった小倉高校という現実。
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「『20年に一人』レベルの逸材を逃したことで、織田君が活躍するたびに現在の小倉・中島大貴監督の元に『なんで獲らなかったんだ!』のクレームが殺到しているそうです」
トマスさんの心には、今もやるせなさが残っている。
選手の県外流出…背景に“特殊ルール”
もちろん、東筑も織田の存在は知っていて、気にはかけていた。だが福岡高野連で決められている「福岡の公立私立の高校野球指導者は、11月まで中学生に接触をしてはいけない」というルールがあるため、東筑としてもどうすることもできなかった。
このルールは一見公正に見えるが、実際には県外の私学にとって有利に働いている。県外からのスカウトには制約がないため、優秀な選手は11月を待たずに県外に流出してしまう。県内の学校は手をこまねいて見ているしかない状況が生まれているのだ。
織田のケースは、この構造的問題を象徴している。地元に愛着を持つ関係者が「県外に出すな」と警鐘を鳴らしても、制度的な制約により福岡の高校は動けない。たとえるなら、マラソンのスタート地点で、フライングを許しているようなもの。結果として、福岡の逸材が他県の私学で花を咲かせることになっている。
公立校は勝てるのか? 一つの希望
そういう中で、どうやってチームを強化していくのか。公立校として福岡で優勝して甲子園に出るにはどうしたらいいか。しかも平日約3時間という短い練習時間の中で、だ。東筑の青野は熟考しながら、考えをめぐらせている。

