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23歳で戦力外通告…“北のイチロー”と期待された元オリックス吉田雄人30歳のいま「函館の田舎町で“部員4人”の野球部監督に」
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米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2025/08/27 11:20
北海道・森高校野球部を率いる吉田雄人監督(30歳)。2014年からオリックスで5年間プレーした
5年目はいよいよ崖っぷちだ。7月末に昇格を掴むと、「1打席1打席が最後だと思ってやるしかない」と覚悟を語っていた。
そして8月2日の楽天戦。8番センターで先発出場すると、5回裏の第2打席で美馬学のシュートを弾き返した打球が、センター前へ。初めて“H”ランプが灯った。
まさに待望の1本だったはずだ。だが試合後の吉田は、想像していたほど高揚していなかった。
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「嬉しかったというよりは、ほっとした感じです。1打席目が終わった時に福良監督に『当て逃げみたいになってるから、大胆に、しっかり強く振れ』と言われて、それだけを意識しました。長打じゃなく、ああやって内野を抜ける感じはずっと目指してきたもの。(抜けろと)めっちゃ祈りました(笑)。もう打てないんじゃないかなと思う時期もあったし……。5年かかっちゃったけど、やっと打てたなと」
それが吉田にとって、プロで記録した最初で最後のヒットとなった。
その打席で使用したのは、使うのをやめたはずのイチローモデルのバットだった。
吉田は当時の思いをこう明かす。
「4年目の終わり頃から、もうそろそろヤバいから、後悔ないようにしようと思って。人の言うことを聞かないというか、自分の納得いくかたちで終わりたいなと思って、最後はそのバットを使いました」
その年10月、吉田は戦力外通告を受け、ユニフォームを脱いだ。
あのバットは今どこに? そう聞くと、あっけらかんと言った。〈第2回に続く〉

