甲子園の風BACK NUMBER
「試合終了ー! あれ…先輩が怖い顔」元NHKアナが体験した“甲子園の魔物”「一番忘れられない」のは大阪桐蔭vs履正社より“公立校の広陵撃破”
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谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/18 11:03
大阪決戦となった2017年センバツ決勝をはじめ、多くの名場面を実況席から見届けてきた元NHK豊原アナ。だが意外にも、甲子園には苦い思い出がある
「同点の場面で智弁和歌山の高嶋(仁)監督は1年生左腕の滝谷陣投手をマウンドに投入するんです。もちろん、必死に平常心を保っていましたが、内心では『この場面で1年生をマウンドに送るか〜』と痺れているわけです。ここで、私はなぜか頭の中で『これを抑えたら智弁和歌山の勝利』と変換してしまうんですね。同点なので延長戦突入のはずなのに。結果、滝谷投手は空振り三振でピンチを脱するわけなのですが……」
その瞬間、豊原アナはこう言葉を発してしまった。
「空振り三振ー!試合終了!」
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その瞬間、記者席はざわついた。
「何か変な空気だなと思ったその時、解説の方がマイクに乗らないような小さな声で『延長です』と教えてくれました。慌てて訂正したものの、お目つき役で隣にいた先輩が怖い顔でこちらを見ていて……」
試合後、豊原アナはスポーツアナウンサーとしてのキャリアが終わった、と悔やんだ。ただ幸い、翌年もチャンスは巡ってくる。2003年夏の甲子園2回戦でスポーツ実況の原点ともいえる公立高校との出会いがあった。
忘れられない“公立校”の番狂せ
「山口県の岩国高校はとても印象深いチームの一つでした。実は、ちょうどスケジュールが合ったので前日練習の取材に行ったんです。いつもはなかなか時間がなくてできないことなので、彼らがやろうとしていることをしっかりインプットして試合に臨みたいな、と」
岩国に対するは、のちに巨人で活躍した西村健太朗と、広島にドラフト1巡目指名される白濱裕太の強力バッテリーを擁する広陵高校だった。一方の岩国は、この大会が始まるまで甲子園7連敗中で、1回戦で同校初勝利を挙げたばかり。“挑戦者”であることは誰が見ても明白だった。
前日練習の視察に足を運んだ豊原アナは、そこで下馬評を再確認する光景を見た。


