甲子園の風BACK NUMBER
「試合終了ー! あれ…先輩が怖い顔」元NHKアナが体験した“甲子園の魔物”「一番忘れられない」のは大阪桐蔭vs履正社より“公立校の広陵撃破”
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谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/18 11:03
大阪決戦となった2017年センバツ決勝をはじめ、多くの名場面を実況席から見届けてきた元NHK豊原アナ。だが意外にも、甲子園には苦い思い出がある
「西村投手の速球対策として打撃マシンを140キロに設定していました。しかも、(マシンを)近いところに置いて。選手たちは一生懸命やってるんですけど、まったくバットに当たっていなくて、正直『意味あるのかな』と思うほどでした。それでも監督さんが『とにかく反対方向、右方向だ!』と。バットに当たり出してもボテボテで……あぁ、この感じだと明日は厳しいだろうなって」
だが、豊原アナの予想は覆される。岩国の狙いを絞ったバッティングが序盤から制球に苦しむ西村を追い込むと、4−7で迎えた7回表、ついに粘っこい岩国打線がセンバツ優勝投手をとらえた。
「打線が3巡目ぐらいしてからかな。右打ちがパカーン、パカーンと当たり出すんです。最終的に絶対的エースをノックアウトして勝っちゃうんですから。実況しながら驚きました」
甲子園実況は球児のために
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9回にも3点を追加した岩国が12-7で撃ち合いを制し、広陵の春夏連覇の夢を打ち砕いた。
「一緒に中継を担当した解説の川本幸生さん(故人)『速い球には、ああやって対抗すれば非力な高校生でもなんとかなるという良いお手本だよ。工夫次第で強豪を倒せるんだ』と、高校野球の奥深さを教えてもらって。もちろん岩国も強いチームではありましたが、そういう部分にしっかり気づいてあげないと高校生の頑張りを表現するということにならないんだということを強く意識した試合でした」
豊原アナは「甲子園実況デビュー2年目、クビを切られないおかげで良い経験ができました(笑)」と冗談めかしながらも、こと高校野球に関しては特別な想いがあると明かす。
「語弊がある言い方かもしれませんが、高校野球の実況はプレーしている高校生のためにやっている感覚なんです。彼らが10年後、20年後に試合映像を見返した時、頑張ってきた成果やプレーを実況者がちゃんと言葉に残してくれていたら嬉しいじゃないですか。アーカイブを作っている、といいますか」
オリンピックやラグビーW杯で実況を担ってきた元NHK豊原謙二郎アナ。自身のYouTubeでも明かしているように、甲子園には特別な想いがある ©︎Nanae Suzuki
豊原アナがその思いを強くしたのは、NHK時代の後輩の言葉を耳にした時だ。

