甲子園の風BACK NUMBER
「試合終了ー! あれ…先輩が怖い顔」元NHKアナが体験した“甲子園の魔物”「一番忘れられない」のは大阪桐蔭vs履正社より“公立校の広陵撃破”
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谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/18 11:03
大阪決戦となった2017年センバツ決勝をはじめ、多くの名場面を実況席から見届けてきた元NHK豊原アナ。だが意外にも、甲子園には苦い思い出がある
「高松高校野球部出身の中村信博というアナウンサーがいて、実は彼も甲子園に出てるんです。ただ、背番号は14番でベンチ入りメンバー。試合には出ていません。それでも『僕は豊原さんに実況してもらいました』と言ってくれるんです。『あれ、実況したっけな……(笑)』と記憶が曖昧だったんですが、映像を見返したらメンバー紹介の時に確かに言及しているんですよ。『14番はキャッチャーのナカムラ』と。それだけでも彼にとっては宝物になっている。それを聞いて、一言一言を大事にして伝えないといけないとより思うようになりました」
そこから高校野球を中継する意義を深く考え始めた。
「なぜ日ごろ子供番組を放送しているEテレが、それをとめてまで高校野球を流すのか、それを考えないと『打ちました』『捕りました』と単純なプレーをしゃべるだけになってしまう。スポーツ実況は2~3時間の生中継の世界ですから、アナウンサーのポリシーや人生観が出るものです。正解を求めなくても良いから、自分なりに『高校野球はこういうもの』という考えがあるべきで、それがないと放送の深まりもないと私は思っていて。それがあればしっかりと視聴者に説明できるんです」
球児にとって憧れの舞台である甲子園。それは、実況者にとっても同じ。一瞬の輝きを拾い上げるアナウンサーたちの技術にも注目してほしい。

