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低迷リバプールの救世主は「名門ケンブリッジ大で博士号」「ノートPCにかじりつく連中」だった…看板選手に「期待外れだ」ホンネで告げた大改革 

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ジェームズ・ティペット

ジェームズ・ティペットJames Tippett

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2025/08/03 17:01

低迷リバプールの救世主は「名門ケンブリッジ大で博士号」「ノートPCにかじりつく連中」だった…看板選手に「期待外れだ」ホンネで告げた大改革<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

アジアツアーで日本を訪れたリバプール。現代最強クラブの“映像に映らない”改革とは

 彼らはデータ分析を核に名門を再建しようとしていた。そこで白羽の矢を立てたのがグラハムだったのである。

 事実、FSGはリバプールを買収すると、グラハムを軸にボストン・レッドソックスのリサーチ部門のコピー版とも言える組織を構築している。

 ただし古参メンバーの反応は、あまり芳しいものではなかった。

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 スカウト部門に配属されたバリー・ハンターによれば、グラハムたちは「サッカーをわかっていない、ノートパソコンにかじりついている連中」と揶揄されたという。だがグラハムは動じなかった。従来のサッカー界の常識を覆し、子供時代から応援してきたクラブに成功をもたらすべく、画期的なデータ分析に一層のめり込んでいった。

リバプール復活のもう1人のキーマン

 リバプールの復活を裏方で支えたもう1人のキーマンは、マイケル・エドワーズである。エドワーズはとにかく控えめな人物として知られており、記者会見や公の場に姿を現すことはめったにない。だが近年、チームが成功を収めるうえで、大きな貢献をしてきた。

 エドワーズが、データ分析官としての素質の片鱗を見せたのは、ピーターバラU-18でプレーしていた頃だった。

 彼はコンピューターに夢中になり、ユースチームの他のメンバーが時間の無駄だとからかったような、プログラミングなどに打ち込み始める。クラブを辞めた後、シェフィールド大学で経営学と情報学を専攻。さらには新進のサッカーデータ会社であるプロゾーンに、アナリストとして就職する。この会社はリーズにある倉庫を改装した小さなオフィスで運営されており、少数のアルバイト社員が試合映像を撮影し、チームのパフォーマンスを分析したデータを提供していた。

クラウチら中心選手にも率直に“期待外れだ”

 プロゾーンは、データアナリストを全国のプロクラブに送り込んでいたため、エドワーズもポーツマス担当に配属され、トップチームのパフォーマンス分析、対戦相手の戦術分析、移籍市場での獲得候補の評価などを手がけるようになる。

 しかし2003年当時のサッカー界は、プロゾーンが起こそうとしていたデータ革命に対応できていなかった。例えばエドワーズは、ポーツマスの監督だったハリー・レドナップから電話を受けたことがあるという。その内容は、選手データの入ったCD-ROMを車のCDプレイヤーに入れたのに、音が出ないという文句だった。

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