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甲子園優勝3回“やまびこ打線”池田高も定員割れの現実「まるでホテル…寮を新設」公立校で県外生徒が入学、激変する現場「5年後、面白くなると思います」
text by

田中仰Aogu Tanaka
photograph byNumberWeb
posted2025/08/03 11:02
徳島県西端の山間にある池田高校
「もちろん勉強してペーパー試験で大学を目指すのもひとつの道です。でも、池田の探究活動で関心あるテーマを見つけて、それに突き進むという生き方もあると思うんですよ。でも、なかなか……」
――何よりも進学実績が重視されてしまう。
「そうねえ。仕方ないんやけども。隣町に進学校があるから、進学実績だと特色が重なってしまうからね」
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原校長はいわゆる“田舎の先生”というタイプではない。生徒集めの参考になりそうな論文などをNotebookLMで読み込ませ、その概要を通勤中の車内でラジオ代わりに聞く。専門家を招いて、教員向けにChatGPTやSNSに関する講習会も開く。減りゆく生徒をそれでも池田に集めたい。言葉に苦渋の色が滲んでいた。
賑わった町が「消滅可能性自治体」に
「昔は町が人で賑わっていた」。池田町の人々から幾度となく聞いた言葉だ。1990年に日本たばこの生産工場が閉鎖されるまで、町はたばこの製造で繁栄した。加えて四国の中心に位置し、宿場町でもあった。アーケードの旅館や居酒屋は連日賑わった。
「ゲームのドラクエⅢが発売されたとき、池田高校の近くにあったジャスコから阿波池田駅前までの500mくらい、大行列ができたんですよ」
1988年当時、隣町に住んでいた楠本隆文氏(現・徳島インディゴソックスの筆頭オーナー/株式会社 明和クリーン代表取締役)は池田町の光景を思い出す。
しかし、徐々に若年世代が池田を離れるようになった。理由は仕事だ。「建設業、農業、公務員しかほぼ選択肢がない」とある池田OBは言う。とりわけ女性が町を離れた。2050年までの30年間に、若年女性人口が50%以上減少すると予想されている。それによって、池田のある三好市は「消滅可能性自治体」と名付けられている。
公立校の「県外生徒受け入れ」進む
原校長が見せてくれたパソコン画面には、こんな名前のファイルが映し出されていた。
<池田高校 全国生徒募集戦略>
“全国”とある。そう、池田は今、徳島の公立校でありながら、県外の生徒も受け入れている。徳島県教育委員会が、2016年度から親を伴わない県外生徒の転居を認めたのだ。原校長の表情がパッと明るくなる。
「(今年1月に)新しくできた寮は、生徒を呼び込むアピールポイントの一つです。子どもたちにとって至れり尽くせりですよ」
池田野球部の寮といえば、名将・蔦文也の自宅裏にあった通称「蔦寮」が知られている。じつはこの「寮」から、池田野球部の歴史が浮かび上がる。同校へ93年に入学したOB、楠本が説明する。


