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甲子園優勝3回“やまびこ打線”池田高も定員割れの現実「まるでホテル…寮を新設」公立校で県外生徒が入学、激変する現場「5年後、面白くなると思います」
posted2025/08/03 11:02
徳島県西端の山間にある池田高校
text by

田中仰Aogu Tanaka
photograph by
NumberWeb
阿波池田駅を出て真正面に200mほどのアーケード街がある。初夏のゆるやかな風が商店街を通り抜け、シャッターをかすかに揺らす。商店街がとぎれた先を西方面へ曲がり、歩くこと5分。小高い丘の上にその高校はある。
少子化で定員割れ…名門公立校の苦悩
創立103年の池田高校。甲子園優勝3回、準優勝2回を誇る高校野球の名門だ。小技を嫌って打ち勝つ攻撃的な野球は「やまびこ打線」、チームを率いた蔦文也は「攻めダルマ」と称され、日本中を熱狂させた。40年ほど前の高校野球は池田を中心に回っていた。
なぜ池田の時代は終わったのか。おそらく要因は一つではない。だが決定的ともいえる黄金期との違いがあった。少子化と過疎化である。
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取材で会った池田出身者に当時のクラスと生徒の数を尋ねた。池田の現校長、原史麿は同級生に、甲子園で夏と春を連覇した江上光治や水野雄仁がいた。その1983年度卒業世代が約320人で7クラス。蔦文也の孫、哲一朗の2002年度卒業世代が240人で6クラス。そして2025年度卒業見込みの現世代は143人で5クラスだった。
2025年度の徳島県公立高校の入試倍率は「0.99」。全日制の募集定員4102人に対して出願者数が4062人と、県全体で定員割れを起こしているのだ。
例に漏れず、池田の定員も割れた。普通科103人、探究科35人の募集定員に対してそれぞれ78人、28人。2次募集を実施するも定員は満たなかった。
「ショックでした。特に探究科の定員割れは初めてでしたから」
池田の原校長は声を落とす。高校は子どもに選ばれるための特色が求められる。その点、原校長は、進学だけでなく、生徒が関心のあるテーマを研究できる探究科に期待を寄せていた。

