マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
下町の公立中学から“卒業生10人以上”が今夏の甲子園出場のナゼ…監督「中学野球がゴールじゃないんだよ」<練習場は50m四方の校庭>
posted2023/08/06 11:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
SANKEI SHIMBUN
それはもう、明らかに1つの「現象」だった。
東京の下町の小さな区立中学の野球部OBたちが、プロで、大学で、そして高校野球の夏の大会で――あっちでもこっちでも台頭し始めた。
この5月頃からだろうか。千葉ロッテ・横山陸人(投手・179cm86kg・右投右打・専大松戸高・4年目)がペナントレースでリリーフ陣の一角に定着し始め、試合後半の1イニングを任されるようになった。
敗戦処理的な登板から、勝ちゲームのリリーフのワンピースに。サイドハンドからの150キロ近い動く速球とスライダーを武器に、ここまで(8月2日現在)21試合の後半1イニングに登板し1勝0敗10HP…イニングとほぼ同数の奪三振が、その球威を証明しているようだ。
ちょうど同じ時期、横浜DeNA・深沢鳳介(投手・177cm74kg・右投右打・専大松戸高・2年目)が、イースタンリーグに週に一度の間隔で先発登板し、投げるたびに5イニング、6イニングを1、2点に抑えて、ここまで5勝3敗。横浜DeNAファーム投手陣の勝ち頭になった。5イニングに1四球程度の安定した制球力は、彼の持ち味そのものに見えていた。
OBでたった2人だけのプロ野球選手のその2人が、同じ時期に台頭してきている。
同じ頃、中学時代、横山陸人とバッテリーを組んでいた坂口雅哉(捕手・173cm80kg・右投左打・八王子高・4年)が仙台大学の主力打者としてリーグ戦で東北福祉大を破って全日本大学野球選手権に出場し、やはり中学時、横山陸人との投の二本柱として奮投した土屋大和(177cm81kg・右投右打・関東一高・4年)が東都大学リーグ・立正大学のエースとしてこの春3勝をあげ、強豪社会人チームに入社内定の嬉しい知らせも届いていた。
プロ野球、大学野球で活躍を見せる彼らの共通点は…?
東京の新小岩に、上一色中学校(江戸川区)という区立中学がある。
その野球部の監督である西尾弘幸先生とは、前任校からのお付き合いになるから、もう20年ほどになろう。練習や試合にもおじゃまして、時折、お節介にもアドバイスなども送ってきた。
50m四方ほどの、グラウンドというよりは「校庭」を練習場にして、方法を工夫しながら一生懸命努力して、その成果が結果につながるようになり、ここ数年は中学軟式野球の全国大会の常連になったから凄い。その上、昨年はとうとう全国制覇してみせたから、嬉しい驚きだった。