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長嶋茂雄23歳と天覧試合…真実はサヨナラ弾だけでない「両チームに恩賜のタバコ」「初のONアベックアーチ」王貞治19歳は“打率.169の二本足打法”
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広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2025/06/25 06:00
初の天覧試合でサヨナラ本塁打を放ち、試合後インタビューを受ける長嶋茂雄
王にとってこの一発がプロ入り4本目、まだ“二本足打法”で打った一打だった。また長嶋と王は「ON砲」として106回の「アベックホームラン」を放っているが、これが最初の1本だった。
この一打で小山は降板。大阪の田中監督は控えにいた村山実に「お前、投げられるか?」と聞いた。関西大学からこの年入団した新人の村山は「もちろん」と即答した。
試合終盤で4ー4の同点。両陛下は午後9時15分には皇居にお戻りになることが前もって通知されていた。
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その時間が刻々と迫っていた9時12分、9回裏、先頭打者として打席に立った長嶋は、カウント2-2から村山が投じた内角をえぐるシュートを、体を開いて振り抜いた。
見逃せばボールだったが、打球は左翼ポール際の中断席に飛んで劇的なサヨナラホームランに。天皇皇后両陛下は、興奮さめやらぬ観客席に、手を挙げてお応えになって球場を後にした。場内は異様な興奮に包まれた。
村山「あれはファウル」、しかし長嶋は…
村山は後年まで「あれはファウルやった」と言い続けた。長嶋茂雄は「生涯忘れられない一打だった」と述懐している。まだリサーチ会社がなかったから、この試合の視聴率はわからないが――すさまじい数字だったのは想像に難くない。
長嶋は、日本人の記憶に残る劇的な活躍をした選手だが、その中でも最高の一発だっただろう。
この劇的な「天覧サヨナラホームラン」によって、プロ野球は日本の「ナショナルパスタイム(国民的娯楽)」へと上り詰めたのだ。
〈参考文献:『ON記録の世界』『栄光の背番号3』。追悼・ありがとう長嶋さん特集:つづく〉

