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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
スタンドでは「ビールなんか飲んでる場合じゃないだろ!」ベテラン記者が振り返る長嶋茂雄“引退試合”リアル回想録「厳粛というか…妙に静かで」
text by

安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2025/06/13 11:01
1974年10月14日に行われた「ミスタープロ野球」長嶋茂雄の引退試合。当日、現地は異様な雰囲気に包まれていたという
444号……「3」並びである。しかも、打たれた村上義則投手の背番号が「34」。だから、背番号34の金田正一投手(国鉄)からの4連続三振で始まったプロ野球生活を、同じ34番の左腕からの本塁打で締めくくる。
これだって、長嶋選手にしかできない離れワザといえば、間違いなく「離れワザ」であろう。
球場の雰囲気が変わったのは、この頃からお客さんの数が急に増えたからだ。
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仕事は昼で切り上げて、「『背番号3』の最後の雄姿を見に行こう!」……そんなノリで詰めかけるお客さんたちで、外野席まであっという間にいっぱいになって、最上段は立ち見のお客さんがビッシリ並んだ。
この日、すでにリーグ優勝していた中日ドラゴンズは、名古屋で優勝パレードが行われるとかで、後楽園球場に送り込んだメンバーは、今の言葉でいうと「Bチーム」。エースの星野仙一もいなければ、高木守道も、谷沢健一もいないスターティングメンバー。
それに対してジャイアンツは、もちろん柴田勲、高田繁の1、2番で始まり、王貞治、長嶋、末次利光のクリーンアップに、黒江透修、土井正三、森昌彦の露払い。これ以上、望むべくもないベストメンバーで、「ミスター引退」に目一杯の敬意を表わしていた。
当時はそのことについて「長嶋選手に失礼である!」と批判・糾弾の声も上がったそうだが、ともあれダブルヘッダーの第2試合も、10対0の大差の巨人リードで9回を迎えていた。
試合後のセレモニー…スタンドも異様な空気に
試合が終わって、両チームの選手たちがダグアウト前に整列する。長嶋茂雄選手の引退セレモニーが始まった。
試合のあとだから、ビール売りはほんとは終わっていなければならない。しかし、ここで倉庫に引っ込んでいては、この日の後楽園球場にいる意味がない。試合終盤から、私は倉庫から離れた一塁側スタンドに隠れるようにして、引退セレモニーの時を待っていた。

