12年ぶり単独最下位も…“ソフトバンク異変”はなぜ起きた？「柳田（悠岐）の起用には異例の“意見交換”も…」元フロントが分析する「構造的理由」 

柳田の起用には…異例の「意見交換」も

――小林さんが在職中であれば、その象徴たる選手とは誰でしたか。

小林　やはり柳田選手ですね。広島経済大学時代からプレー全体に華があって注目していました。実は当時、柳田選手の起用をめぐって、王（貞治）会長と私で、秋山（幸二）監督と意見交換をしたことがありました。メジャーリーグでは「マネーボール革命」以降、フロントが選手起用に関与するスタイルが一般化しつつあり、その影響は日本にも徐々に波及してきています。

　ただ、当時の日本球界では、選手の起用は「あくまで監督の専権事項」という考え方が根強く、極めて慎重な対応が求められる時代背景がありました。秋山監督も、柳田選手の潜在能力については非常に高く評価していました。一方で、孫オーナーからは「絶対に優勝してほしい。補強はいくらでもする」と明確な指示が出ていました。

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――「育てながら勝つ」というのは、現実的には非常に難しい命題ですね。

小林　王会長は現場の事情をよく理解していて、自身も監督を務めた経験から「監督が背負う重さ」を誰よりも知っていました。そのうえで、「常に時代の変化に対応し、フロントと現場が協働する体制が必要だ」という考えで、柳田選手の将来性を非常に高く評価していた。

　王会長は「監督時代の自分であれば、選手起用にフロントから口を出されることには抵抗があった。最終的に勝敗の責任を負うのは監督だからこそ、起用は監督の専権事項だという気持ちは今でもある。けれど、それを承知のうえでお願いしたい」と、秋山監督に頭を下げていました。秋山監督の背中を押すことで、重圧を少しでも軽くできるのではないかという配慮もあったのだと思います。

――秋山監督もアメリカ留学の経験もありますよね。

小林　そうですね。それもあって、メジャー流の現場運営にも理解が深かった。「意見交換は歓迎します。ただし、最終的な判断は現場に任せてほしい」と、非常に懐の深い対応をしてくれました。そして最終的には「極端に結果が出なければ別ですが、まずは1カ月、辛抱してみましょう」と、柳田選手の起用に前向きに応じてくれたのです。現場とフロントが率直に話し合い、信頼関係を築けていたからこそ、柳田選手という球界を代表するスターが育ったのだと思います。

　とはいえ、正直なところ当時の時点で彼がここまでの選手になると確信していた人は、おそらく王会長も秋山監督も、そして私自身も含めて一人もいなかったのではないでしょうか。あれだけの選手になったのは、ひとえに本人の努力と成長によるものです。

――今後のソフトバンクを占う意味でも、今シーズンに「ポスト柳田」となる選手の台頭や育成が求められてくるわけですね。

小林　もちろん、「ポスト柳田」を育てていく意識は今後も重要です。ただ、柳田選手のような突出した存在はそう簡単に現れるものではありません。だからこそ、スター性を感じる選手がいれば、時間をかけて育てる覚悟と、それを支える体制がますます求められると思います。

　長く強さを維持してきたチームだからこそ、体制が固定化しがちだった面は否めません。ですが、前述のように今年は城島さんがスタッフに就任するという大きな変化もありました。私もすでに現場を離れた立場ではありますが、これからの変化に注目し、陰ながら応援していきたいと思っています。

＜次回へつづく＞

#2に続く

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