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「もう最悪な気分です」イギリスGPで転倒…小椋藍が明かした本音「オレってダメなんじゃないか…でもこんな気分になったのは初めてじゃない」
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遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2025/05/28 17:00

イギリスGP初日のフリー走行で転倒し怪我を負ってしまった小椋藍が、その胸のうちを明かした
思えば、Moto3クラスでタイトル争いを繰り広げた2020年のフランスGPも、コロナ禍の中で10月という寒い時期に開催されて苦戦して9位に終わる。この結果がタイトル争いを厳しくしたと言ってもいい悔しいレースだった。その他にも気温が低くて苦戦したレースは多い。しかし、Moto2でタイトルを獲得した昨年のフランスGPでは2位表彰台に立っている。藍は「ル・マンであれは出来すぎ」と語るが、ある程度気温が上がれば本来の走りが出来るし、コースのレイアウトの問題ではないことは明らかだった。加えて、昨年8月に開催されたイギリスGPではポールポジションを獲得(決勝はトラブルで14位)するなど、藍を苦しめる最大の敵は「寒さと雨」ということを結果が証明している。
そんな状況の中でのイギリスGPの転倒負傷欠場は、藍の気分をへこますに十分な結果だった。土曜日朝の検査で明らかになった骨折もまた、やっかいな場所だった。右足頸骨の上部先端部分で膝の裏側にあたる。もし手術が必要なら回復までそれなりの時間が必要になる。右膝の腫れは血がたまっていたもので、それを抜いてとりあえず膝は曲がるようになったが、あくまでも応急処置だった。
「こんな気分になったのは初めてじゃない」
いずれにしても、Moto3、Moto2クラスのチャンピオンや優勝経験のある強豪ライダーが揃うMotoGPクラスで、表彰台に立ち、優勝するには、どんなチャンスも見逃すことは出来ないし、「気温が低いコンディションでタイヤをグリップさせらない」というウイークポイントを乗り越えていかなければならない。その対処法は、マシンのセッティングというよりも、藍のライディングにあるような気がする。つまり藍のライディングは、ドライコンディションではタイヤを持たせる走りが出来るというものだが、その一方でそれは、気温が低いときにタイヤを温められないという現象につながっているからだ。
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あの日、「オレってだめなんじゃないか……」と落ち込んでいた藍は、「でも、こんな気分になったのは初めてじゃないし、これまで何回もあるんですよ」とも語ってくれた。でも、それを乗り越えて昨年はMoto2クラスで世界チャンピオンに輝き、MotoGPクラスでも、シーズン序盤からルーキーとは思えない大活躍を見せてきたのだ。
それを思えば、フランスGPとイギリスGPで経験した苦悩と怪我は、これから藍をどれだけ成長させることになるのかと思うばかり。これを書いている時点では、その後の検査結果と復帰の時期は未定だが、これから迎える本格的な夏のシーズン。藍の巻き返しに期待したい。

