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「もう最悪な気分です」イギリスGPで転倒…小椋藍が明かした本音「オレってダメなんじゃないか…でもこんな気分になったのは初めてじゃない」 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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photograph bySatoshi Endo

posted2025/05/28 17:00

「もう最悪な気分です」イギリスGPで転倒…小椋藍が明かした本音「オレってダメなんじゃないか…でもこんな気分になったのは初めてじゃない」<Number Web> photograph by Satoshi Endo

イギリスGP初日のフリー走行で転倒し怪我を負ってしまった小椋藍が、その胸のうちを明かした

「そうですね。ただ走るだけじゃ意味がないし、もし(転倒するまでのフリー走行と同じように)ちゃんと走れたとしてもタイムも出ていないし……。チームからはどうしても走ってくれとは言われてないし、とにかく明日の朝、足の状態を見て決めますよ」

 この後、冒頭に書いた「最悪な気分です」「オレってだめなんじゃないか……」という言葉につながっていくのだ。

 この会話は、藍のスポンサーであるアライヘルメットのサービスオフィスでのやりとりだった。メディアスクラムやピットでは、こうした感情的な言葉は決して聞くことはできないし、苦悩する小椋藍がそこにいた。

トップ10も「ワイルドカードに負けちゃだめ」

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 前戦フランスGPも雨と寒さに苦しんだ。レースは藍にとっては初めて経験する“フラッグ・トゥ・フラッグ”。路面コンディションの変化によりマシンを乗り換えることができる変則ルールだが、藍はスリックからレインタイヤ(ほとんどのライダーがそういう判断だった)にマシンをチェンジ。大荒れのレースとなり、藍は10位でフィニッシュ。順位的には「まずまず」と言っていいものだった。

 このとき僕は「トップ10フィニッシュできたし、まあまあじゃないの?」と言葉を掛けた。すると藍は、「だめなんですよ。レギュラーライダーはワイルドカードに負けちゃだめなんですよ」と悔しそうに語ったのだ。

 大荒れのレース。タイヤ選択やピットインのタイミングなどが大きくリザルトに影響したが、同じアプリリア陣営のテストライダー、ロレンツォ・サバドーリが9位。ホンダのテストライダーの中上貴晶が6位だった。藍は大会が始まってから同じ日本人ライダーとして先輩にあたる中上のことを意識したコメントは一度も語っていないが、一方の中上は藍を意識した発言をしていた。それもあるのだろう。この言葉は、サバドーリは勿論だが、中上をより意識した言葉だということは容易に想像がつくことだった。

 そんなレースが終わったばかりだというのに、再び、寒さと不安定な天候に苦しめられた。前戦フランスGPは、右コーナーが多く、左コーナーでタイヤが温まりにくかった。その影響もありフランスでは左コーナーで2度の転倒。1大会で2度の転倒は、慎重な性格な藍としては珍しく、初めてのことだった。そしてイギリスGP初日の転倒も、右コーナーが3回続いた後の最初の左コーナー「Farm Curve」で、MotoGPマシンは全開で駆け抜け、車速は約250km前後。このときはリアのハイサイドでの転倒で、「そんなに攻めているわけではなかった」という状況だった。

最大の敵は「寒さと雨」

 こうして藍は2戦連続で「寒さ」と「ウエットコンディション」に苦しんだ。フランスでは「最終的にウエットコンディションでトップと同じくらいのタイムで走れた」と苦手意識をある程度は克服できたが、「寒さ」の中でタイヤをグリップさせられない現象には、相変わらず苦しめられたことになる。

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#小椋藍

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