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「落合博満とトレード寸前だった」巨人が“優しすぎる”右腕を手放さなかった39年前の舞台裏「斎藤は出せない!」“平成の大エース”の覚醒前夜
 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2025/05/02 17:03

「落合博満とトレード寸前だった」巨人が“優しすぎる”右腕を手放さなかった39年前の舞台裏「斎藤は出せない!」“平成の大エース”の覚醒前夜<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

「平成の大エース」と言えばこの人

忘れられない黒星

 結果的にこの場面は犠飛とタイムリーで1点差まで詰め寄られることになる。斎藤は何度も交代を願ってベンチに視線を送ったが、藤田はこれを無視し続けて続投させた。最後は一直併殺でピンチを切り抜け、9回も続投したことであの大記録が始まるのである。

 このシーズンに斎藤は30試合に先発して21完投、7完封で初の20勝(7敗)を達成している。2年前には0勝でどん底を味わった右腕が、「平成の大エース」へと踏み出したシーズンだった訳だ。

 ただこの年の7つの黒星の中には、1つだけ、どうしても忘れられない苦い思い出のものがあった。

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 8月12日の中日戦だった。斎藤は9回1死まで許した走者は四球と失策による2人だけ。あと2つのアウトでノーヒットノーラン達成に迫っていた。しかしそこから記録達成どころか、逆転サヨナラ負けという悪夢の敗北を喫したのである。

立ちはだかった「4番・落合」

 3点リードの9回1死。中日ベンチが送った代打の音重鎮に、初球を右安打されて夢は終わった。

「音さんにライト線に落とされた瞬間は『ああ、あと2人だったのに』くらいで、そんなショックはなかったんですね。もちろん意識していましたよ。でも、その瞬間はダメだったかっていうだけでした」

 しかしそこから明らかに斎藤のリズムは狂ってしまった。2死までこぎつけたものの四球と安打で1点を奪われ完封も逃す。なお一、三塁で打席に迎えたのは中日の4番・落合博満だった。

「まさかね……ホームランを打たれるとは思っていなかった。抑えられると思っていましたから」

 斎藤は振り返る。

「落合さんってボール球を振らない。カーブで誘っても、まず見極めるので(ストライク)ゾーンで勝負しなければならないバッターでした。後になって落合さんが『オレ、真っ直ぐしか待ってないから』って、よく言っていたというのを聞いて、そういうのを早く聞いときゃ良かったなと思いましたよ。変化球は打たれそうだと思って『もう、真っ直ぐいけ!』と思って……。結局、真っ直ぐを打たれちゃった」

斎藤と落合の因縁

 1ボールからの2球目、141kmの外角低めのストレートだった。落合がバットに乗せるような独特のスイングで、バックスクリーン右に逆転サヨナラ3ランを運んだ。

「アッ……エッ……うわ、負けちゃったよ、と。あのときはめちゃくちゃショックでした。落合さんってそこに投げさせるっていうか、投げさせられちゃうっていうのがあるんです。あのときもインコースを狙った真っ直ぐが、外の甘めにいってしまった。“落合はこうやったら絶対抑えられる”っていうのがないバッターですけど、基本的にはオーソドックスなんです。それなのにこっちは余計なことを色々と考えてしまう。それで落合さんの術中に、見事に誘い込まれてしまう感じなんです」

 実は落合と斎藤には因縁がある。

【次ページ】 落合とのトレード騒動の真相

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