甲子園の風BACK NUMBER
「今でも一番すごいと思った投手は奥川君」…甲子園の名伯楽も絶賛 度重なるケガで離脱も…それでもファンが“悲運のエース”奥川恭伸を待ち続けるワケ
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沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2025/02/19 17:00
下半身のコンディション不良で実戦登板回避となったヤクルトの奥川恭伸。ここまでキャンプでは順調な仕上がりを見せていたのだが…
「もう自分、今年で6年目なんですよね……」
今年のキャンプ。奥川は、表情をやや硬くしながらこうポツリと呟いていた。
6年前のちょうど今頃、奥川は星稜のエースとして、この上ない輝きを放っていた。
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出場を決めた第91回選抜高校野球大会関連の雑誌は巻頭カラーを奥川が飾り、新聞でも大きな見出しと写真で最新情報を伝える記事が連日紙面をにぎわせた。
2019年センバツ…優勝候補を17奪三振で完封
2年生の夏の甲子園で150キロをマークしていた奥川は、大会ナンバーワン右腕の呼び声も高く、注目度は世代屈指。取材の度に多くの報道陣が奥川の周りを囲った。それでもセンバツ大会は「全くプレッシャーにはならなかったです。むしろ楽しかった」と振り返っている。
大会初日の第3試合に登場した星稜が相対したのは、優勝候補の呼び声が高かった履正社(大阪)。井上広大(現阪神)ら強力打線を擁し、奥川との対戦は大会屈指の好カードとされた。肌寒いセンバツの第3試合ともなれば、大抵はスタンドが閑散としている。だが、この試合は4万人を超える観客がスタンドを埋めた。
初回。1番打者の桃谷惟吹(現ヤマハ)に対し、2球目で150キロをマークし、球場内は大きくどよめいた。そこから指にかかったストレートで履正社の各打者の懐を攻め続け、17奪三振完封勝利(3-0)。強力打線を完全に封じ込めた。
本人は、プロ入り後、当時のピッチングをこんな風に振り返っていた。
「ああいう雰囲気の方が当時は力が出せる方だったんです。高校では腕をしっかり振って真っすぐが投げられれば、そこまで打たれない自負がありました。履正社のバッターの当時の印象は、身体の大きいバッターが多くて(バットは)振れるけれど自分が思うボールを投げればバットに当てられない自信はありました。でも、プロでは楽しいだけでは投げられないですね。プロになると考えることが増えたので……」


