甲子園の風BACK NUMBER
「今でも一番すごいと思った投手は奥川君」…甲子園の名伯楽も絶賛 度重なるケガで離脱も…それでもファンが“悲運のエース”奥川恭伸を待ち続けるワケ
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沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2025/02/19 17:00
下半身のコンディション不良で実戦登板回避となったヤクルトの奥川恭伸。ここまでキャンプでは順調な仕上がりを見せていたのだが…
プロでは高校のようにはいかないだろうという覚悟は、もちろんあった。それでもプロ入り後は「野球をやってきて、ここまでケガが続いたのは初めて」とこぼしていた。思うようにいかなかったここ数年は、まさに自分との戦いの日々でもあった。
甲子園の名将が今も思い出す「奥川の衝撃」
6年前、その履正社を率いていた岡田龍生監督は、22年4月から母校でもある東洋大姫路の監督となり、今春開催される第97回選抜高校野球大会に出場する。昨秋、優勝した近畿大会4試合で29得点を叩き出した強力打線について尋ねると、決まって奥川と対戦した当時の経験談を口にした。
「センバツで奥川君を見て、こういう投手を打たないと日本一はないと思いました。あのとき春に対戦出来たことで、高い目標が掲げられた」
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近畿大会の準決勝が雨天中止になった際は、履正社と星稜が甲子園で対戦した映像を選手たちに見せ、好投手との相対し方を説いたこともあったという。
2019年の夏の甲子園決勝戦では、奥川はその履正社と再戦。
1-0で迎えた3回に4番の井上に逆転3ランを浴びた。7回に同点としたが、8回には連続適時打を許してさらに2点を失った。3-5で履正社にリベンジを許し、日本一はならなかったが、実は奥川の胸中には意外な思いもあった。
「よく5点で収まったなと思いました。逆転されて、同点にしても8回にさらに突き放されて、もう9回裏のサヨナラしか勝ち目はないと思っていたんです」
準決勝まで4試合に登板し、うち2試合は完投。酷暑の中での疲労もあった。決勝戦に関しては明らかに制球力が落ちているのが見て取れたが、それでも気力でピンチを脱していた。白眉は3回戦の智弁和歌山戦だ。延長14回を投げ抜き23奪三振、1失点の完投勝利。終盤でも150キロをマークした剛速球とも相まって、19年夏の甲子園の主役は間違いなく奥川だった。


