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大抜擢の先発でたった3球で危険球退場…カープの3年目ドラ1黒原拓未が失意のどん底から復活できた理由
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2024/12/02 06:02
智弁和歌山高から関西学院大を経て、21年のドラフト1位で広島に入団した黒原
森下の戦列復帰もあり、一軍の先発ローテからは外れることとなった。当初は二軍で次回登板を待って調整するプランだったが、黒原が見せた成長度に一軍にとどめる案が浮上。新井貴浩監督は当時のやりとりを明かす。
「すごくいいものを見せてくれたし、すごくいい球を投げていた。ファームで(先発として)スタンバイしておくのは、すごくもったいないと思ったので、試合後に彼と話をした。『(二軍で)先発待機しておくか、(一軍の)ブルペンに入ってやった方がいいのか。どっちだ?』と聞いたら、『先発でもブルペンでも何でも、とにかく一軍の力になりたいです』と言ってくれたから、じゃあブルペンに入れようという感じかな」
2度目の先発から中4日をへて、ブルペンの一員となった。ビハインドや大量リードの展開、延長戦など登板状況は問わず、黒原は投げた。イニングまたぎやロングリリーフも担った。中継ぎ転向後、11試合連続無失点。5月25日のDeNA戦では、延長11回に登板し無失点に抑えてプロ初勝利を手にした。場所は危険球退場になったのと同じ横浜スタジアムだった。
「ここまで長く感じました。でもそれは自分の実力というか、自分が蒔いた種子なので。自分の弱さを受け入れて、これからももっと上のレベルに上がれるようにしていきたいと思います」
失敗から得た学び
自信を持って左腕を振り続け、最後まで一軍で投げ続けた。1年目から続いた暗闇からようやく抜け出し、記録なしで始まった防御率は2.11の好成績で終えた。森下、栗林良吏に続くドラ1投手の新人王獲得はならなかったものの、受賞した巨人の船迫大雅に見劣りしない数字を残した。
船迫/51試合 4勝0敗 22ホールド 防御率2.37
黒原/53試合 4勝3敗 3ホールド 防御率2.11
「前は感情のコントロールがちょっとへたくそだったと思う。仕方なかったけど、その時間がもったいない。でも、無駄なことはないと思う。無駄にするのか、そうしないかは自分次第。成功も失敗も学びだと思う。毎年、毎年、進歩していくしかない」
新人王の称号は得られなかったものの、この3年の浮き沈みで得たものは黒原にとって何物にも代えがたい財産となった。