炎の一筆入魂BACK NUMBER
大抜擢の先発でたった3球で危険球退場…カープの3年目ドラ1黒原拓未が失意のどん底から復活できた理由
posted2024/12/02 06:02
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
今年活躍したプロ野球選手が一堂に会するNPBアワーズが都内で行われた11月26日、黒原拓未は広島で契約交渉に臨んでいた。新人王は次点に終わり、東京行きはかなわなかったものの、その表情は晴れやかだった。
「本当にすごくいい評価をしていただいていた。何より、また来季もこのチームで野球をさせてもらえることが、本当にありがたいことだと思う。そこに感謝の気持ちを持って、来年もがんばりたいなと思いました」
大幅増を提示されるなど飛躍のシーズンとなった1年は、“記録なし”の登板から始まった。
3月30日の開幕2戦目に先発予定だった森下暢仁が右ひじの張りを訴えたことで、直前まで開幕ローテーションを争っていた左腕の黒原に白羽の矢が立った。
転がり込んできたかたちの登板機会は、だが一瞬にして終わった。プレーボールから3球目がDeNA度会隆輝の頭部付近をかすめ、危険球退場を宣告された。敵地はブーイングに包まれた。代わった投手が失点したが、1アウトも取れなかった黒原の防御率は「―」。つまり、記録なしだった。
死球を当てた相手への謝意や首脳陣への申し訳なさ、これまでやってきたことを出せなかった無念に襲われた。それでも、自らを奮い立たせた。ようやくここまで辿り着いたのに、こんな形で転げ落ちるわけにはいかない――。そんな気持ちだった。
ドラ1が味わった失意の1年目
2021年のドラフト会議で、西日本工大の隅田知一郎(西武)、法大の山下輝(ヤクルト)を抽選で外した広島から1位指名を受けて入団した。1年目の22年は開幕一軍入りし、初登板から7試合連続無失点と上々のスタートを切った。だが、8試合目以降は失点する登板が続き、5月4日の巨人戦での2失点の翌日に二軍降格となった。
選手登録抹消からまもなく、以前から感じていた左肩の痛みをとるため、リハビリを主とする三軍に移った。即戦力として期待されたルーキーイヤーだけに「再び一軍へ」の思いが日に日に積み上がっていく一方で、違和感に似た痛みはなかなか消えなかった。
「もう、ストイックにやるしかないなと。自分の中ではきつくないと思っていたし、変わりなく過ごしていたつもりだったんですけどね」
一軍はおろか、二軍のマウンドにも上がれない。まるで真っ暗闇にいるようだった。気丈に振る舞っていたものの、5kgほど体重が落ちた。