16歳で甲子園のアイドルとなり、エリート街道を歩んできた原にも意地はあった。このまま終わってたまるか、という意地である。自分のバッティングの原点に戻ろうと、高校時代の左手の使い方を打撃練習で試し、足を保護するため、インソールに衝撃吸収材のソルボセインを使用したハイカット・タイプの最新スパイクを履いた。酒の量も減らし、ストレス解消には真夜中のプロレス中継をビデオに録って翌日楽しむ。度重なる引退報道には、「オレの生き方に干渉しないでくれ。辞めるときはいうからっ」と記者陣に訴えた。元西鉄の豊田泰光は自身の連載「オレが許さん！」で「巨人の四番としての危機感」について、こう書く。

1975年春のセンバツ。東海大相模高の原貢監督（右）と原辰徳父子　©JIJI PRESS

「減俸は必至。いまごろ打ったって、シーズン後には、どうせまたああだ、こうだいわれるに決まってる。そんなことならベンチで遊んでいても一緒だ。フツーならそう考えますよ。それでも原は打った。これは巨人の元四番として一種の“無償の行為”です。報われる、報われないに関係なく打ってみせる。これもまた巨人の四番なんです」（週刊ベースボール1994年8月22日号）

「落合さんより先には、辞めないよ」

　7月31日ヤクルト戦、「六番三塁」で後半戦2度目の先発出場をすると、9回にダメ押しの2試合連続アーチ。8月2日の広島戦でも、片瀬清利から東京ドームの左翼席へ2回に5号ソロ、4回には6号2ランとなんと31日のヤクルト戦から自身初の3打席連続本塁打を放ち、チームを3連勝に導くのだ。

　突然の元四番の大爆発に長嶋監督も「何かつかんだようですね」と喜んだが、この5年前、1989年6月5日発売のNumberでは浪人中のミスターと、四番を張っていた頃の原が対談している。

1989年6月5日発売Number221号での長嶋茂雄×原辰徳対談「巨人軍の四番について語ろう」【1枚目／全2枚】。原は当時30歳

1989年6月5日発売Number221号での長嶋茂雄×原辰徳対談「巨人軍の四番について語ろう」【2枚目／全2枚】。原は当時30歳

「僕はサードにあこがれてね、長嶋さんにあこがれて、野球に取り組んだわけです。小さい頃僕は九州にいまして、テレビは巨人戦しかないわけです。『僕は大きくなったら、巨人のサードを守るんだ。巨人の4番を打つんだ』という夢を抱いてやってきて、それが現実になって」（Number221号）

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