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「"横浜優勝"の日、青森の恐山にいた…」ベイスターズファンの村瀬秀信が“26年ぶりの日本一”を前に逃げ出したワケ「自分が見ると負ける」
posted2024/11/18 17:45
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph by
Nanae Suzuki
発売中のNumber1108号に掲載の[特別エッセイ]「ハマの番長がファンに見せたかった景色」より内容を一部抜粋してお届けします。
優勝をかけた試合でなぜか恐山に…
横浜優勝。
本当のことらしい。ついさっき、森原康平がホークスの柳田悠岐を三振に取って日本一になった瞬間を羽田空港の到着ロビーで見た。モニターには三浦大輔監督がコーチ陣と肩を組んで涙を流す姿が映し出され、ベンチから勢いよく飛び出してきた選手たちが、次々とマウンドの上で折り重なっていく姿が見えた。
横浜が本当に優勝するなんて、信じていなかったわけじゃない。だけど、優勝から3時間が経とうとしている今でも確信が持てずに混乱している。
優勝を懸けたこの日本シリーズ第6戦。どうしてなのか、青森の恐山にいた。第5戦まではすべて球場に貼りついてその一挙手一投足を見逃すまいと見ていたのに。最後の最後、優勝するかもしれないという日に恐山まで逃げ出して、ベイスターズの優勝を祈っていた。
多分、おそらく。心のどこかで「自分が見ると負ける」と臆していたのだ。子どもの頃からベイスターズも、その前身の横浜大洋ホエールズも強くなかった。大人になるまで記憶にあった勝ち試合は斉藤明夫の完封と野村弘樹の完投勝利だけ。一方で、前回優勝した1998年は西表島にいた。2017年は肺炎で死にかけて入院。ハマスタで日本シリーズを観たことは一度もなかった。
俺が見たらいけない。26年、優勝から遠ざかっていたのだ。その間、ベイスターズが勝つために、世の中にある、ありとあらゆる願掛け、縁起担ぎ、パンツ換えない。全部やってきた。でも勝てない。12球団で最多、5369敗の記憶は、自分で自分に呪いをかけるには十分過ぎた。何も珍しいことじゃない。弱い時代が長かったチームのファンにはよくある話だ。
勝敗では測れない魅力
優勝は38年周期。人生で一度味わえたら幸せ、二回が限界。それがこの星のチームに誠を誓う者の宿命と嘯き、負けた時の心の保険にした。もちろん勝ってほしいし、優勝してほしい。だけど、勝敗がプロ野球のすべてと認めてしまったら、一度も優勝できずに去っていった過去の選手たちはどうなる。このチームで戦ってくれた選手たちは絶対に負け犬なんかじゃない。誇らしい個性的な選手と、一度勢いに乗ったらどこよりも刺激的で面白い野球をやってのけるチーム。しつけが悪くて、でたらめで調子乗り。ベイスターズの野球には勝敗では測れない魅力があるのだ。
\横浜優勝/
そんな言葉がある。たった一勝しただけでも、ベイスターズファンのSNS上には、この言葉が大量に流れてくるのだ。ここでいう“優勝”に真実味はない。一説によると「横浜が優れているから勝った」という限定的な意味を表した言葉遊びらしい。一勝の重みに謙虚が過ぎるというか、ひねくれているというか、どこか勝利を諦観しているような文化を持つベイスターズという特異な土壌が生んだスラングだった。
そんなベイスターズも、2012年にDeNAになってから、徐徐に勝てる空気が醸成されてきた。
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