記事を
ブックマークする
「本物の横浜優勝を見せてくれて、ありがとう」村瀬秀信が綴るベイスターズの物語…ハマの番長がファンに見せたかった景色とは?《エッセイ》
横浜優勝。
本当のことらしい。ついさっき、森原康平がホークスの柳田悠岐を三振に取って日本一になった瞬間を羽田空港の到着ロビーで見た。モニターには三浦大輔監督がコーチ陣と肩を組んで涙を流す姿が映し出され、ベンチから勢いよく飛び出してきた選手たちが、次々とマウンドの上で折り重なっていく姿が見えた。
横浜が本当に優勝するなんて、信じていなかったわけじゃない。だけど、優勝から3時間が経とうとしている今でも確信が持てずに混乱している。
優勝を懸けたこの日本シリーズ第6戦。どうしてなのか、青森の恐山にいた。第5戦まではすべて球場に貼りついてその一挙手一投足を見逃すまいと見ていたのに。最後の最後、優勝するかもしれないという日に恐山まで逃げ出して、ベイスターズの優勝を祈っていた。
多分、おそらく。心のどこかで「自分が見ると負ける」と臆していたのだ。子どもの頃からベイスターズも、その前身の横浜大洋ホエールズも強くなかった。大人になるまで記憶にあった勝ち試合は斉藤明夫の完封と野村弘樹の完投勝利だけ。一方で、前回優勝した1998年は西表島にいた。2017年は肺炎で死にかけて入院。ハマスタで日本シリーズを観たことは一度もなかった。
俺が見たらいけない。26年、優勝から遠ざかっていたのだ。その間、ベイスターズが勝つために、世の中にある、ありとあらゆる願掛け、縁起担ぎ、パンツ換えない。全部やってきた。でも勝てない。12球団で最多、5369敗の記憶は、自分で自分に呪いをかけるには十分過ぎた。何も珍しいことじゃない。弱い時代が長かったチームのファンにはよくある話だ。
全ての写真を見る -2枚-「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています