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「12球団調査書」「1位もある」中学時代“控え捕手”からドラフト候補投手に…神戸弘陵・村上泰斗を初めて見た日の“事件”「152キロだって…!?」
posted2024/10/23 17:12
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph by
Kota Inoue
投手歴は高校入学後の2年半のみ。そこから最速を153キロにまで伸ばし、ドラフトを前にして、プロ12球団から指名の可能性を示す「調査書」を受け取った。
そんなシンデレラストーリーを歩んでいるのが、神戸弘陵の本格派右腕である村上泰斗だ。
旧チーム名である「スカイラーク」の愛称で親しまれる大阪箕面ボーイズでプレーした中学時代は捕手。神戸弘陵を指揮する岡本博公は、「控えのキャッチャーでしたね」と振り返るが、村上本人はやんわりと補足する。
「智辯和歌山に行った福元(聖矢)が1個下にいて。自分と同学年のピッチャーが投げるときは自分が受けてたんですけど、1個下のピッチャーが投げることが多くて、そのときは福元がキャッチャーでした。そういうときは、自分が内野や外野で出る、みたいな感じでした」
2人の認識に若干のズレはあるものの、投手経験を持たないまま高校に入学したのは事実だ。ボーイズの監督が神戸弘陵出身だった縁で進学すると、岡本が腕の振りの強さを見抜いて、投手転向を提案。これを転機に、一気に才能が花開いた。
直球の回転数は、プロ野球の投手の平均値が2200から2300回転とされる中、最大で2600回転を計測したこともあるという。良質の直球はプロのスカウトたちを魅了し、「2位以内には消える。展開によっては1位もあり得る」との声もささやかれている。
村上が本格派右腕として飛躍し、指名有力候補を飛び越え、「ドラフト上位候補」と呼ばれるようになり、私は心底安堵している。それは、1年前の“ある出来事”が関係している。
1年前の、とある練習試合
言おうか、言うまいか。映し出された数字を前に逡巡した。
薄い青色のスピードガンの背面にある、球速表示画面には「152」が点滅。大仰な数字に困惑していると、後ろからいたずらっぽい声が響く。
「152、出たなあ!」
声の主は、ともに試合を観ていた、島根の益田東を率いる大庭敏文である。
時は昨年の5月末日。この日、島根県益田市にある益田東のグラウンドで、同県の開星、そして神戸弘陵との練習試合が実施されていた。
益田東と開星による1試合目が終わり、グラウンドでは開星と神戸弘陵との一戦が行われている。益田東は最終の第3試合で神戸弘陵と対戦予定で、大庭は観戦しながら待機していたのだ。
「結構速いんで、注目したってください」
第2試合が始まる前、神戸弘陵の監督である岡本と話す機会があった。その際に、岡本から“売り込み”があった。「途中から投げる2年生が結構速いんで、注目したってください!」
当時投手に転向して1年あまりの村上である。取材で関西圏に足を運ぶ機会が少ない自分にとっては、聞きなじみのない選手で、手元のスマートフォンで検索したのだが、記事などは見つからず。少なくともこの時点では、目立った実績はないようだった。そうこうしていると、試合は中盤を迎え、瘦躯の投手がマウンドに上がる。村上だ。