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大谷翔平「50-50達成」の原点…プロ初本塁打を“打たれた”男の告白 引退後に変わった“第1号”への想い「打たれた当時は悔しかったですけど…」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2024/09/21 06:02
2013年、プロ1年目だった大谷翔平に「初本塁打を打たれた」楽天の永井怜。当時は悔しさもあったが、いまとなっては「誇らしさもある」という
当時は悔いの残る1球となったが、あとになって頭を整理すると、大谷のバッティング能力の高さが鮮明に浮かび上がってくる。
「2球目が厳しいところにいきすぎていたんで、3球目も厳しいと言っても大谷選手のなかでは、前のボールより中に入っているというか、甘めに見えていたはずなんです。前の打席からも含めて、1球、1球、ピッチャーの球筋とかを分析しながらしっかり対応されて。打たれて改めてすごさというか、そんな雰囲気を感じましたかね」
永井と大谷の対戦は、この打席が最後となった。
引退を決断した15年には、自分からプロ初ホームランを放ったプレーヤーは、二刀流として巨人の如き進撃を日本球界に植え付けており、そして18年に海を渡った。
野球の最高峰であるメジャーリーグでも2度のアメリカン・リーグMVP、昨シーズンにはアジア人初のホームラン王にも輝いた。その本数は、日米通算270本、メジャーだけでも222本を記録する(9月20日現在)。さらに今シーズンは、前人未到の50ホームラン、50盗塁の「50-50」を成し遂げた。
永井から始まった大谷のホームランレコード。今では栄光の軌跡として、1本の積み重ねが世界中を釘付けにしている。
「打たれた当時は悔しかったですけど…」
打たれた側ながら誇らしく。永井が紡ぐそんな矛盾も、相手が大谷であればこそ、誰もが納得してしまうのかもしれない。
「打たれた当時は悔しかったですけど、今ではありがたいと思っていますよ。大谷選手が打てば打つほど、クローズアップされるかもしれないですしね。彼にとって記念のホームランは、僕にとっても記念になっています」
記録は年月の経過とともに色彩を変える。
大谷に許した「プロ第1号」。不名誉だと思っていた記憶は、今では永井にとって語り継ぐに値する足跡となっている。