甲子園の風BACK NUMBER
大社の監督・石飛文太(42歳)とは何者か?「文ちゃんの高校時代なあ…プレーの印象ないな」“あの神バント”安松大希が地元記者に語った「ある言葉」
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph bySankei Shimbun
posted2024/08/19 11:30
大社高校を率いる石飛文太監督(42歳)
島根大会6試合は出場なし。甲子園、それもひりつくようなタイブレークで巡ってきたこの夏初打席。大半の選手が緊張感に押しつぶされてしかるべき場面である。だが、試合後の安松は「緊張はなかった」と言い切り、こう続けた。
「死ぬほど練習してきたんで」
安松はおとなしそうな、いかにも人のよさそうな顔立ちをしている。だが、このときの表情には、今までにないすごみがあり、圧倒されそうになった。
島根大会の優勝時も…涙、涙
今大会、石飛の勝利監督インタビューは、ちょっとした“名物”となっている。
奮闘した選手たち、OBや歴代の監督たち先人への感謝を述べ、時折、目に涙を浮かべる。「生徒の底力は無限大」というキラーフレーズはあるものの、作り込まれていない、生の言葉で紡がれるインタビューが聞く者の心をゆさぶる。
思えば、島根大会で32年ぶりに頂点に立った瞬間もそうだった。
エースの馬庭優太が最後の打者を空振り三振に斬り、マウンドでうずくまると同時に、石飛もベンチ横で膝をつき、涙を流した。試合終了後も涙は止まらず、何度も顔を覆った。
「選手たちには、『純粋に野球をやろう』とは言うんですが、OBの方、地域の方、色々な人たちの思いがあっての甲子園なので、監督として、自分の中では思いを背負って戦いたいと思っています」
島根大会の決勝直後に述べた、32年ぶりの甲子園に向けた意気込みだ。
選手たちは純粋に目の前の試合を戦い、石飛はその戦いと結集された思いに心を躍らせる。この繰り返しでたどりついた93年ぶりの甲子園8強。107年ぶりの4強進出を叶えたとき、石飛の表情は、紡がれる言葉はどんなものなのか。