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甲子園の風BACK NUMBER
“甲子園の魔物”説も…「うわぁぁって…人生で初めて見た」大社ベンチも驚いた早稲田実の奇策「あの9回裏直前にハプニングがあった」現地記者が見たウラ側
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/18 17:05
タイブレークの延長11回裏。サヨナラ打を放った大社エースの馬庭優太
2人が被っていて、8人が脱いでいる。大内秀則コーチによれば「帽子は被ったままでいい」ということになっているらしい。いずれにせよ、脱ぐか被るか統一されていることが多い強豪校ではほとんど見られない光景だ。
あるいは9回裏でのシーン。1点差で負けているため、この回に点が取れなければ終わる。追い詰められた状況と言っていい。実際、肩を組んだ円陣からは気迫を感じる。野球は9回から、絶対に逆転するぞ、と。大黒柱の馬庭が打席に向かう。その直後、あるハプニングが起きた。審判が何やら大社ベンチに声をかけ、選手が慌ててグラウンドに向かう。そう、一塁コーチ(攻撃側のチームが配置するベースコーチ)が不在だったため、試合を始められなかったのだ。
「うわぁぁって……野球人生で初めて見ました」
大社の同点劇、早稲田実の5人シフト。高校野球史に残るであろう「大社と早稲田実の激闘」にはそんな素朴な光景が散りばめられていた。
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2対2の同点。9回裏、1死二、三塁。大社がサヨナラのチャンスを迎える。外野のレフトに、誰もいない。球場がどよめく。事態を飲み込めないのは記者席も同じだった。前列に座る記者の会話が聞こえる。
「これ……どこがどうなってる?」
「ピッチャーの横にいるの……あれ、レフトですよ! レフトの子が今、あそこまで来てる。だから外野が2人なんです」
その様子をベンチから見ていた、島根は隠岐島出身の高梨壱盛(4番ファースト)が興奮気味に振り返る。
「うわぁぁって……驚きました。野球人生で初めて見ましたから。と同時に、あのシフトを見て楽しいとも思ったんです。全国にはいろんな野球があるんだなと」
話題は監督の石飛にも及ぶ。
「練習とかはもちろん厳しいですよ。監督としての立場もあると思うので。でも試合は違います。完全にチームの一員です。声出して盛り上げて。今日も逆転されたとき、一番声出してましたから」
「まだホテルに泊まれるのか、とか(笑)」
当の石飛は試合後、時折涙を見せながら報道対応をしていた。まだ結果を飲み込めていないようだった。