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大社の大応援…体感した早稲田実ナインの証言「勝っているのに勝っていないような」“あの9回裏”現地で何があったのか?「馬庭優太の衝撃」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/18 11:09
タイブレークの延長11回裏。サヨナラ打を放った大社エースの馬庭優太(左)。手前はしゃがみこむ早稲田実2番手・川上
「向こうの応援がすごくて、飲まれないようにしていたんですけど、無意識のうちに引き込まれてしまった。勝っているのに、勝っていないような気分にさせられて、焦ってしまいました。僕らも全力だったんですけど、大社はそれ以上に全力だった。そういう部分で甲子園のファンも応援してあげたいっていう気持ちになったのかもしれません。ああいう雰囲気は初めてでした」
声援で聞こえず…バント処理
いつもは早実の大応援が相手への圧力となっていた。ところが、この日は立場が逆になっていた。
続く大社の送りバントは投手の川上真と捕手で譲り合ってしまい、内野安打にしてしまった。川上が悔やむ。
「2人とも『OK』って言ったんですけど、声援で聞こえなかった。2人で捕りにいってしまって、(捕球寸前のところでともに)引いてしまったんです。投げているときは応援は聞こえなかったんですけど、打球が前に飛んだときとかにワーッとなって、自分たちの声が聞こえなくなってしまいました」
直後のスクイズでも川上は一塁に悪送球をしてしまった。
ただ、これだけミスを重ねても、内野手5人シフトで併殺を奪うというビッグプレーが出るのが「そのままこけない」早実らしさだった。
馬庭君の気迫がすごかった
大きな賭けに勝ち、早実ペースになるかと思われた。ところが、得意にしていたタイブレークに入ってから10回表、11回表と2イニング連続で点が入らず、その裏、サヨナラ負けを喫した。和泉がこうシャッポを脱ぐ。
「馬庭(優太)君の気迫がすごかった。彼の魂ですよ。それと応援がすごかったね。(早実の)相手チームはいつもこんな思いでやってるのかなと思いました」
2時間40分の死闘を終え、和泉はいつになくセンチメンタルになっていた。
「ナイター、きれいだね。プロ野球選手、いつもこんな中でやってんだね。美しかった。お互いの生徒が。ほんとに」
ナイターの美しさは、いつの間にか選手たちの美しさにすり替わっていた。