甲子園の風BACK NUMBER
球場でヤジ応酬、32歳監督に殺害予告も…あの岩手大会決勝から5年“佐々木朗希の代わりに登板した男”の証言「なぜ5番手ピッチャーが先発した?」
text by
柳川悠二Yuji Yanagawa
photograph byAsami Enomoto
posted2024/08/24 17:22
2019年夏、岩手大会決勝。試合後の球場で観客のヤジが響いた
「2番手、3番手だったふたりの右投手は、個人情報にもかかわってきますから言えないですけど、投げさせられない事情がありました。それに花巻東の強力打線には、右のオーバースローの投手ではなく、右サイドで変則の柴田の方が、初登板で疲れもないし、少しでも抑えられるのではないかという期待がありました。打者として起用しなかったことも、疲れている朗希よりも、他の野手の方が振れるだろうし、勝利の可能性は高まると思っていました。決して、試合を投げ出していたわけではありません」
先発した投手の証言「正直、通用しないと思った」
しかし、柴田の起用は捕手の及川恵介ら当時のナインにとっても予想外のことだった。当然、本人も――。柴田が決勝の先発を振り返る。
「決勝の先発は、その日の朝に伝えられました。自分でいいのかな、と思いました。他のみんなも驚いていたし、自分でも、チームで5番手の投手だと思っていましたから。当然、花巻東に勝つことを考えたら、朗希が投げた方が可能性は高いですが、とにかく出場するからには頑張って投げるしかない。その時点ではみんな、朗希が投げるかもしれないと思っていましたから、僕はなんとか試合を作って、朗希につなげようという一心でした」
柴田は初回の先頭打者に三塁打を放たれ、自身の暴投などもあって、いきなり2失点を喫した。2回、3回にも失点を重ねた。
「イニングの合間に、朗希と(捕手の及川)恵介の3人で話しました。朗希には自分のボールにタイミングが合っている花巻東のバッターが限られているように映っていたようで、『球速はないんだから、コースをしっかりついて、打たせていこう』『高さだけを気をつけよう』と言ってくれていました。ただ、自分としては正直、3~4回ぐらいで、『通用しないな』と思いました。通用しないというか、今の自分じゃ(花巻東打線を抑えるのは)無理だと思いましたが、監督さんは自分を引っ張ってくれた。『まだまだ通用する』と、勝利への糸口があると思ってくれているんだと自分に言い聞かせて投げていました。でもやっぱり、チームの勝利のためには代えてもらった方が良かったと思います」
どうして國保は、事前に登板の可能性を告げなかったのだろうか。あれから幾度かの夏を経るなかで、柴田は國保の意図をこう解釈するようになった。