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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「大谷翔平を本気にさせた」伝説の“甲子園8強エース”が振り返る「針金のような体の16歳」が投じた剛速球の衝撃「この子か…すごいな、この子…」
posted2024/08/15 11:03
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
KYODO
「夏の甲子園8強」の誇りは、いつの間にか消えていた。福島・聖光学院高のエースだった歳内宏明が受けた衝撃はそれほど大きいものだった。気づけばベンチを出てバックネット裏の本部席に歩を進めていた。普段の練習試合ならそんなことはしない。だが、相手投手が投げる球を見て、いてもたってもいられなくなったのだ。
大震災後の練習試合
2011年4月29日。
1カ月半前、未曽有の大地震が東北地方を襲い、福島県伊達市にある聖光学院も福島第一原発事故の影響で県外の学校との練習試合が軒並み、中止になっていた。野球部員は支援物資の運搬など避難所でボランティアを行いながら、体を動かし続けてきた。同じく被災地の岩手・花巻東を迎えて練習試合を組んだのは、そんな最中である。
歳内が目の前で投げている長身の右投手を見るのは初めてだった。ひょろりとして、まるで針金のようだ。だが、腕の振りはしなやかで、捕手のミットを弾き飛ばすような快速球を披露していた。
コマ送りで見たフォーム
歳内は心のなかで呟いた。
「この子か……。すごいな、この子……」
初めて彼の存在を知ったのは前年の10月に行われた秋季東北大会のあとだった。ある日、聖光学院に出入りしているカメラマンが興奮を抑えきれない様子で顔見知りの歳内に声をかけてきたのだ。
「すごい子がおった」
カメラマンのパソコンを覗くと、細身で上背がある投手が映っていた。投球をコマ送りしながら見ていく。連続写真だけでも尋常ではない野球センスが伝わってきた。
「あの長身投手は誰ですか?」
「すごく背が高いわりに、すごい投げ方をしてるなあ……」
身長は190cmもあった。しかも、全身を使ってダイナミックに投げる。聖光学院高の指導者たちはもちろんその存在を知っていたが、彼のことを知らずに観戦する学校関係者もいた。「あの長身投手は誰ですか?」。花巻東の保護者に尋ねた人もいたほどだ。名前を大谷翔平といい、2年生だった。躍動感あふれるプレーは、ダイヤモンドの原石のごとく煌めいていた。