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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「大谷翔平を本気にさせた」伝説の“甲子園8強エース”が振り返る「針金のような体の16歳」が投じた剛速球の衝撃「この子か…すごいな、この子…」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byKYODO
posted2024/08/15 11:03
力投する聖光学院・歳内宏明
2番手で登板した歳内は大谷と投げ合う中で気づいたことがある。いつも自分が投げる前には、イニングの合間にマウンド前方の荒れた土をならしていた。
「足、長っ。全然ちがうな……」
自分が左足を踏み込むところを整えていると、さらに打者寄りに、もうひとつ足跡があった。大谷が踏み込んだ跡である。歳内は181cmで小柄ではない。だが、この2年生は自分よりも“先”をいく。打席に立った仲間が「近い」と恐れるのも無理はなかった。
大谷のハートに火がついた
歳内がそんな心境になっていたことを、もちろん大谷は知らない。大谷にとって、1学年上の歳内は同じ東北地方の強豪校のエースであり、夏の甲子園で8強に導いた実績もあり、意識する存在だっただろう。
2年生投手の負けん気に火がついたのは想像に難くない。新聞記事もわずかに13年前の練習試合のことを伝えている。
《歳内(阪神)と投げ合った大谷が投じた自己最速151km……》
《「強い相手ほど燃える」大谷が難敵との勝負の中で……》(日刊スポーツ)
秋の東北大会で計測していた最速の147kmを、大谷がこの日の練習試合で更新し、ついに150kmの大台に乗せていた。
衝撃的な体験
歳内にも意地がある。打席に大谷を迎えると、スプリットで空振り三振に抑えた。
「たしか、5-0で勝ったんですよね。僕もピッチャーだったので、大谷君にはピッチャーの印象が強くて、バッターのイメージはあまり印象に残っていないんです。最初に『ピッチャーとしてスゴイ』と聞いていたので、そこばかり見ていました」
歳内は「大谷を本気にさせたエース」として立ちはだかった。一方で、プロ注目の逸材であっても、同じグラウンドに立つだけで、持つ者と持たざる者の差を突きつけられた。いまも野球界に生きる歳内にとって、忘れられない一日になった。