旧知のカメラマンから大谷の存在を聞いていた歳内はこの日を楽しみにしていた。1学年下の噂の剛腕はどれほどすごいのだろう。歳内自身も、高校球界を代表する投手として勇名を馳せていた。だからこそ、まだ見ぬ大谷の力量を見極めようとしたのだ。

超高校級右腕が受けた衝撃

　10年夏の甲子園。2年生右腕だった歳内は広島・広陵高の有原航平（現ソフトバンク）と投げ合って完封勝利を演じ、2戦目は山田哲人（現ヤクルト）擁する強打の大阪・履正社高から10三振を奪って完投。特に落差の鋭いスプリットは直球と見極めが難しく、並みの高校生が太刀打ちできるボールではなかった。準々決勝で沖縄・興南高に敗れたが、優勝候補の2校を封じたインパクトは強く、一躍、プロ注目の投手としてその名をとどろかせていた。

2年夏の甲子園。履正社高相手に完投勝利した歳内　©︎JIJI PRESS

　あれから半年後、大谷のボールを見た歳内は、ベンチを飛び出した。

「いったい、何km出てるんやろ？」

どんどん上がるスピード

　ガラス張りになっている本部席のドアを覗き込んだ。中ではスピードガンが1球ごとに球速を表示していた。その数値は、まだ世の中が気づいていない「大谷翔平」の傑出ぶりを強烈に発していた。

「147」「148」……。

　歳内は目を疑った。これまでに見たことがない数字だったからだ。聖光学院のスピードガンは球速が出にくく、「140」を超えれば速球派投手の部類に入る。夏の甲子園で活躍した歳内ですら、「142」が最高だった。数球見ただけでベンチに戻った。力を見極めるには、それだけで十分だった。

花巻東高時代の大谷翔平　©︎JIJI PRESS

　マウンドでは黄色いグラブをはめた大谷が仁王立ちしている。打席で向き合った仲間たちはベンチに戻ると口々に言う。

「めちゃくちゃ近く感じる！」

打席に立って感じた“怪物”

　歳内も打席に立ち、非凡さがわかった。

「投げ方も凄かったんです。ボールの出どころが見にくくて、リリースも前で……。投球フォームも力んで投げるタイプではなかったですからね」

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