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「大切な人を大事にして」ロッテ・澤村拓一はなぜお立ち台で想いを口にしたのか…今明かす祖母との別れ、涙の秘話「愛しているよ。おばあちゃん」 

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梶原紀章(千葉ロッテ広報)

梶原紀章(千葉ロッテ広報)Noriaki Kajiwara

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photograph byChiba Lotte Marines

posted2024/04/26 11:05

「大切な人を大事にして」ロッテ・澤村拓一はなぜお立ち台で想いを口にしたのか…今明かす祖母との別れ、涙の秘話「愛しているよ。おばあちゃん」<Number Web> photograph by Chiba Lotte Marines

気迫溢れるピッチングでピンチを抑えた澤村

お立ち台で切り出した言葉

  試合の流れはこの場面で決した。結果的に2-0で勝利。お立ち台に導かれた澤村は「とにかく集中していました。(西野)勇士が頑張っていたんでよかったです」といつも通り、なにもなかったかのように振る舞い、冷静に口にした。

「今、(スタンドに)大声出している人がいますけど、そういう声が聞こえるぐらい余裕があったのでよかったです」と冗談を言ってスタンドを笑わせる場面もあった。ただ最後にメッセージを求められると、少し間をおいて自ら切り出した。

「私事になるのですけども今朝、祖母が亡くなりました。今、皆様の隣にいてくれる人の存在というのは当たり前じゃない。自分にとっての大切な人を大切にして欲しいなあと思います」

「もっと自分の大切な人のために」

 愛する祖母への想いと同時に、今の澤村が感じている率直な気持ちを多くの人へのメッセージとして届けた。スタンドには若者の姿も多く見られた。最愛の人が亡くなった日だったからこそ自分の胸に湧き上がっていた想いが素直な言葉となって口から出た。色々な人に知ってもらいたい、伝えたい大事なメッセージだった。
 

「今の世の中って、SNSで人の事を誹謗中傷したり、あげ足をとったり、なんかギスギスしたものがあるじゃないですか。オレは思うんです。そういうエネルギーをもっと自分の大切な人のために使って欲しい。もしくは自分の事を大切にしてくれている人に喜んでもらうために使って欲しい。

 今って、なんか、そういう大事な事が忘れがちになっているような気がする。ちょっと立ち止まって大事な人は誰か? 大事にしてくれている人は誰か? そしてその人との時間をちゃんと作って大事にしているかどうかを思い返してくれたらなあ、と。ヒーローインタビューではそんな想いが自然と浮かび上がって、言葉となって出ました」

マリンに流れた“特別な時間”

 野球ファンに、そしてこの言葉を口にして報道されることで多くの人の目に留まることを願った。いつも優しく接してくれる最愛の人を大事にするという気持ちを、ちょっとでも思い返すキッカケになれば。それはなんとも澤村らしい行動だった。スタンドは一瞬、静寂に包まれた。それぞれが背番号「11」の心のメッセージを受け取り、脳裏に最愛の人を思い描いているように見えた。ZOZOマリンスタジアムに今まで感じたことがないような特別な時間が流れた。澤村の目は潤んでいるように見えた。 
 

「時間がないという人がいるかもしれませんけど、オレは時間というのは作るものだと思っている。大好きな人との時間はちゃんと作るべきだと思う」

 試合後、帰路につく澤村はロッカールームを出ると廊下を歩きながら、静かに口にした。思えば大学時代は年末年始しか実家には戻らなかった。時間を惜しんでトレーニングに明け暮れた。しかし、幼い頃からいつも寄り添ってくれた最愛の祖母が旅立った今、不意に後悔の念にかられる。 

棺に入れたユニホーム

「あの時のオレはそれが一番の恩返しだと思っていた。でも今はもう少し、時間を見つけて元気な時におばあちゃんとの時間を作ってあげるべきだったと思います。一緒に沢山、写真も撮りたかった。亡くなった今だからなおさら感じる」

【次ページ】 今だから分かる祖母の「愛」

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