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「自信満々なルーキーは褒めちゃダメ」な理由は?…ベテラン記者がキャンプで見た“ブルペン捕手”のすごさ「いい音で捕ればいいってものでもない」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2024/03/10 17:00
ブルペンキャッチャーの存在は投手の成長にとっても大きな影響があるという(※写真はイメージ)
間違いなく、投手の消費エネルギーの方がはるかに大きいと思ったが、当てずっぽうは失礼だ。わかりませんと答えた。
「5倍ぐらいらしいですよ、どこかの大学が測ったそうです。私たちキャッチャーが100m走る間に、ピッチャーは500m走ってる。私は、そんな感覚で受け取ってます」
だから、丁寧に捕球するのだという。
「ピッチャーたちが、どれだけの体力と神経と、それと<思い>を込めて1球を投げるのか。それを考えたら、1球たりとも手を抜くなんてできませんよ。彼らが、ブルペンで1球投げるために、ブルペン以外でどれだけ走り込んでいるか、苦しいトレーニングしているか。若いキャッチャーには、そこを気づいてほしい。だから、私は教えません。自分で気づいて初めて、ピッチャーの投げるボールがかわいくなるんです」
以前、こんなことがあったという。
「大物捕手みたいのが新人で入って来て、ブルペンが本当にいい加減だった。『自分、バッティング買われて入ったんで』とか言ってるんですよ。すぐに、球団に話しました。ブルペンの雰囲気が悪くなるし、そういうのがいるとピッチャーが本気で投げなくなる。害になります」
その大物捕手は、まもなく他のポジションにコンバートされ、球団に貢献することもなく消えたという。
投手も「受け手の感覚を一番、聞きたがっている」
「ピッチャーをいちばん鍛えてくれるのは、実戦のマウンドです。そこは間違いありません。でも、ブルペンで投手を育てるのは、コーチ6分のキャッチャー4分か、もしかしたらその逆かもしれない……ぐらいのことは考えてますよ、スタッフの立場で、生意気かもしれませんけど」
ファンの目線からは隠れている大切な仕事。
「ピッチャーたちも、やっぱり自分たち<受け手>の感覚をいちばん聞きたがってくれる。だから、毎日、毎日、ああやってミットを構えられるんです。だって、彼らの<今>をいちばん正確にわかってるのは、オレたちのこのミットの中の、手のひらなんですから」
そう言いながらミットを外した左手の親指。装着された強化プラスチック製の突き指防止サックには、ヒビが入っていた。
夕暮れのオリックス・宮崎キャンプのSOKKENスタジアム。街へ向かう道には、すべての仕事を終えて、自転車をこぎこぎ宿舎に帰っていくブルペンキャッチャーたちの姿があった。