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「監督を取るか、女を取るか」野村克也はこうしてクビになった…沙知代のお説教「アンタ、なに教えてんのよ!」愛弟子が見たノムさんの素顔
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph bySankei Shimbun
posted2024/02/13 11:04
野村克也と沙知代夫人(写真は90年代、ヤクルト監督時代)
「誘いはだいたい急なんです。『今日、お前の嫁も一緒に4人で舞台に行くぞ』と、藤山寛美さん(喜劇役者)の舞台に誘われました。野村さん自身がチケットを買って、花も持たない完全なプライベート。2階席の1番前の席に座り、マミーも含めて4人で見ていたんです」
と、舞台上で野村一行の視線を集めていた藤山が、「お前、南海の野村が使ってるボロミットみたいな顔しやがって」とアドリブを放った。その瞬間、照明ライトが野村にパッと当たる。混乱する佐藤をよそに、野村は動じることなくすぐに立ち上がって、客席に一礼。その姿に、佐藤は野村の強烈なスターぶりを感じたという。
「その帰りに、4人で飯を食いに行ったときも面白かった。野村さんは、座ろうとするマミーの椅子をすっと引いてアテンドするんですよ。うちの嫁のことなんて気にせず勝手に座っていた私に対して、マミーは『ミチ、男の強さはね、女性に優しくすることよ』とお説教ですよ。それだけならまだいいんですが、『こんな監督だから、選手がこうなるの!』と野村さんの頭をはたきながら言うんだから困りますよ。はたかれている野村さんも笑っていました」
「そうか、500万円いかなかったか…」
野村は面倒見がいい上司で、選手に細かい声がけをしていた。佐藤が1年目で55試合に登板してチームトップの18勝を挙げ、最優秀防御率(2.05)と新人王のタイトルを獲得し、契約更改で2年目の年俸490万円を提示された際も、野村は佐藤を激励している。同期でドラフト2位入団の門田博光は、1年目に79試合に出場して打率2割5分の成績を残し、年俸は倍の360万円になった。それを考えれば、佐藤の490万円は安いように見える。佐藤自身も、モヤモヤしていたのだろう。
「球団から年俸が提示されても、それが安いのかも高いのかもわからない。だから、野村さんに電話したんです。自分の成績から見て、年俸はこんなもんなんでしょうかと。野村さんの返事は、『そうか、ミチ。500万いかなかったか。まあ、来年頑張ったらすぐ上がるからな』と。それで契約のサインをしました。でも、門田は2年目で打点王になって、3年目の年俸がさらに倍の720万円になるんですよ。ところが私の2年目は8勝どまりだったせいか、年俸400万円にダウン。ちょっと考えてしまうよね」
シブチン球団として知られた南海らしいエピソードではあるが、それでも佐藤は3年目に64試合に登板してリーグ最高勝率(7割5分)をマーク。頼れるリリーフとして鉄腕ぶりを見せつけた。年俸ダウンでもモチベーションを切らすことなく「仕事」ができたのは、野村の人徳のおかげでもあるだろう。