「大迫、終わったな」全国高校駅伝を初制覇の翌年にエース大迫傑が不調、そして…佐久長聖高名将の「不安と恐怖ではじまった監督生活」

『佐久長聖はなぜ強いのか?「人」を育てチーム力を上げる指導メソッド』（竹書房）書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

　コーチ2年目（09年）は両角先生の長男・駿が入学して、両角先生は周りに気を遣いながらやっていたのを感じました。一度、他の部員がいるなかで、駿が両角先生にタメ口で話しているのを見て、本人を呼んで、「ふたりで話すときはいいけど、他の部員がいるときはタメ口で話すのをやめなさい」と注意しました。また駅伝部だけの寮が完成するなど、環境が少し変わり、前年とは違うシーズンになったと思います。

　2年生で5000m13分台をマークして、全国高校駅伝7区で区間2位に21秒差をつける14分11秒で快走した大迫傑が最上級生になり、「エース」という立場になりました。しかし、大迫はシーズン通して、アキレス腱に痛みを抱えている状態だったんです。

「大迫、終わったな」

　1500mと5000mに出場した奈良インターハイは両種目とも14位。彼の実力を考えたら不甲斐ない結果になりました。奈良インターハイは両角先生が帯同できず、私が引率することになったんです。スタンドで5000m決勝を観ていたとき、近くにいたどこかの指導者が、「大迫、終わったな」とボソッと言ったんです。帯同した私は凄く責任を感じて、指導者として力不足だなと思いました。

ADVERTISEMENT

　大迫には、「申し訳ないな。お前の力を発揮させてあげられなくて」と謝りました。大迫は「あ、はい」という感じでしたけど、インターハイの悔しさは相当あったと思います。それが全国高校駅伝1区の快走に結びついたのではないでしょうか。

【次ページ】　両角先生の驚異的な調整力