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「せやかて工藤…!」箱根駅伝でトレンド入り“山の名探偵”工藤慎作が解いた早稲田の「山問題」…直前まで絶不調→見つけた《たったひとつの真実》
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byNanae Suzuki
posted2024/01/09 06:00
初の箱根路で5区区間6位と好走を見せた早大のルーキー“山の名探偵”こと工藤慎作。直前までの絶不調からの復活の裏にあったのは?
「工藤には『そんなに頑張らなくていいから、自分がやれることをしっかりやろう』と話をしました。本人は上りを得意としていたので、上りの練習に取り組んだことで、うまくきっかけをつかめたようです」
花田監督がこう振り返るように、山上りの準備を進めたことが、かえって工藤には良かったようだ。
「気持ちの切り替えに時間はかかったんですけど、純粋に調子が上がってきたので、前向きになっていきました」
工藤もまた、少しずつ自信を取り戻していた。こうして、心身ともに上向きの状態で箱根駅伝を迎えることができた。
様々なトラブルがあり指揮官は何度も構想を練り直さなければいけなかったが、5区に関してはシーズン当初に思い描いた通り、工藤を配することになった。
これが“山の名探偵”の誕生前夜だ。
10年以上遠ざかる総合優勝へ…名探偵は難題に挑む
雨脚が強まるなか、工藤は6位でタスキを受けると、前半から快調にペースを刻んだ。
「誰かに抜かされようと、逆に、自分が前の人を抜こうと、自分のリズムを刻んでいこうと考えていました」
スタート時は前も後ろも離れていたが、そもそも工藤は誰にも惑わされるつもりはなかった。
そして、約1分前にスタートした國學院大・上原琉翔との差をじわじわと詰めていき、宮ノ下(約9km)を過ぎてとらえると、小涌園(約11.7km)過ぎには突き放した。
「この悪コンディションのなか、前を詰めて、順位を上げてくれた。多少不安もあったと思うんですけど、その中で自分の力をしっかり出してくれました」
設定タイムは1時間12分30秒だった。雨が降り頻るコンディションを考慮すると「1時間13分台でも御の字」と指揮官は考えていたが、工藤はそれを上回り、1時間12分12秒の区間6位で走った。区間新記録を打ち立てた“山の妖精”山本唯翔(城西大4年)とは約3分の差があったが、上々の箱根デビューと言っていい。
「春に“山の名探偵”と名付けられて、それを無事に実現できて良かった。5区は苦しいんですけど、あと3年間、このままいけたらと思います」
早稲田には第87回大会から遠ざかる箱根の総合優勝という最大の難題がある。「名探偵」はその難題にも立ち向かう。