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中継車に「どきなさい!」箱根駅伝10区、早稲田vs東洋“21秒差の決戦”のウラにあった審判長の指示…敗れた東洋・酒井監督「御礼を述べたい」
posted2024/01/08 06:00
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
JIJI PRESS
語り継がれる名勝負を審判が振り返る連載『審判だけが知っている』。今稿では、第87回箱根駅伝で審判長を務めた吉儀宏さんの登場回を特別に無料公開します。【初出:Sports Graphic Number1042号(2021年12月16日発売)】
第87回 東京箱根間往復大学駅伝競走
2011年 1月2日~3日/東京~箱根
大学駅伝三冠を狙う早稲田は1区に大迫を起用し4区まで独走。3連覇を狙う東洋は5区柏原がトップに立ち往路を制したが、6区で再逆転を許すと差が拡大。8区から10区まで区間賞の猛追も、早稲田に史上最僅差の21秒及ばず。シード権争いも10位と11位が3秒差という大激戦に。
◇ ◇ ◇
87回大会を振り返って、真っ先に浮かんでくるのは芦ノ湖の雪景色です。復路当日の朝に起きてみると、一面にうっすらと雪が積もっていた。この雪で何か事故が起きなければいいな、と心配したのを覚えてます。私は81回から90回大会までの間に、9つの大会で審判長を務めましたが、レース中は本部車に乗り込んで、各中継所や審判員から無線で入ってくるあらゆる問題に対処するのが常でした。
あの大会は大迫(傑)を擁する早稲田と山の神の柏原(竜二)がいる東洋が大変な接戦を演じた年。でも正直、順位やタイム差はほとんど記憶にありません。それよりもやはり、アクシデントの方をよく覚えてます。雪はやんだけど路面は濡れていて、6区では早稲田のランナー(高野寛基)が足を滑らせて転んだでしょ。本部車は先頭集団のすぐ後ろにいることが多いから、あれは目の前で見ていました。
もし彼が走れなくなって競技続行が不可能と判断すれば、私が赤旗を出してランナーを止めなければならない。大丈夫かなと思ったら、すぐに立ち上がってまた走り出したので、ホッと胸をなで下ろしたものです。