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楽天・安楽智大のハラスメント問題はなぜ起こった? これは、一球団のみの“事件”ではない…まだまだ不十分なNPBのハラスメント対応を問う
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byJIJI PRESS
posted2023/12/07 17:52
後輩選手へのハラスメント行為が発覚し、楽天を自由契約となった安楽智大投手
プロ野球の世界はもともと高校の部活時代の先輩、後輩の関係を軸に集団が形成され、さらには成績と実績がモノをいう実力社会でもある。その結果、チーム内でのヒエラルキー体質は強固なものとなって、中心選手となかなか結果を残せない若手選手の間には有無を言わさぬような上下関係が生まれる。そうした上下関係をバックボーンにした中心選手による若手への、いわゆる“いじり”は、ある種のコミュニケーション手段、スキンシップとしても、大なり小なりどのチームでもあることなのだ。
もちろんこの時点ですでにいじる側といじられる側では、行為そのものに対する受け止め方に大きな隔たりがある。そしてこの“いじり”はスキンシップのように行われている時点ではなかなか問題が顕在化しないが、いつの間にかエスカレートして、日常的なハラスメントから最後は暴力にまで発展してしまうケースが出てくるという構図なのだ。
日ハム在籍時の中田翔の暴力事件は…
2年前の2021年に当時、日本ハムに在籍していた中田翔内野手による暴力事件も、そうした経緯を辿って起こったものだったと聞く。以前から可愛がって、それこそいじったり面倒を見ていた選手の態度が悪いことに激昂した中田が、その選手の顔面を殴り、突き飛ばした。
結果として中田は球団から無期限出場停止処分を受けることになるが、処分から10日も経たないうちに、巨人への無償トレードが決まって出場停止は解除されることになる。
この経緯にも様々な意見があると思う。ただ一番の問題はこのときに、NPBがしっかり球界全体の問題として取り組まずに、日本ハムの個別問題として見過ごしてしまったことにあったということだ。
このときにもしNPBと12球団が問題の本質をしっかり見定めて、今回のように選手に対するハラスメントやコンプライアンス順守の意識を持たせる講習会を行い、さらには通報窓口を設置していれば、果たして安楽の行為がこれほどエスカレートしたのか。最終的に安楽は今回の事件をきっかけに楽天の保留者名簿から外れて自由契約となり、事実上の“解雇処分”となっている。将来に関しては不明だが、野球選手として完全にその道を断たれる可能性もあるのは事実だ。
自業自得といえば自業自得かもしれない。それでもこうした最悪の結果を未然に防げる機会を球界、特にNPBが逃したことも、大いに反省すべきである。
ハラスメントの対応策は十分なのか?
そして今回決まったハラスメントに対する駆け込み窓口の設置という対応策にも、まだ不十分さを感じる部分があるのだ。