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「阪神の監督は3年できん…寝れんのです」あの星野仙一が吐いた弱音…野村克也から岡田彰布まで「まるで大河ドラマ」38年ぶり日本一の“伏線”
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byNanae Suzuki
posted2023/11/28 11:03
今シーズン、阪神を38年ぶりの2度目の日本一に輝いた岡田彰布監督
徐々に広がる“金本の改革”
03年、1番・今岡誠、2番・赤星憲広、3番・金本知憲というオーダーがチームの意識改革を促した。ルーキーの01年から連続盗塁王に輝いた赤星が一塁にいれば、金本は初球をほぼ打たず、絶好球でも見送った。個人の成績よりチームの勝利を優先させた。
「自分の数字が悪くなっても、味方の盗塁をアシストする。ホームラン30本打てるバッターが進んで自己犠牲をする。悪しき伝統を金本が変えてくれたんや。それに、キャンプでも遅くまで700も800もスイングする。そうしたら、赤星や鳥谷(敬)も『僕らも負けんように、金本さんが終わるまでは絶対に練習するんだ』となるでしょ」
阪神に染まっていない若手は金本を見習った。鉄人は赤星との対談で〈8割できると思ったら、シーズン中は言っちゃいかん。痛い、かゆいと言うのは「張っている」ぐらいでいい〉(※3)とも助言していた。
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「それまでの阪神の選手は少し痛ければ、すぐに欠場しておった。金本はケガしていてもスタメンで出る。だから、周りも休めなくなった。大改革してくれたんや」
星野仙一の吐露「寝れんのです」
競争の激しくなったチームで休養を申し出れば、ポジションはなくなる。星野が怒号を飛ばさなくても、選手は自然と緊張感を持ってプレーするようになった。
「03年なんて開幕から勝ちまくったから、怒る要素もなかった。ただ、負けが込んできた時、ベンチでアイスボックスを蹴り上げたことはあった。雰囲気をピリッとさせるためのカンフル剤としてな。試合後、監督室で『三宅さん、痛いわ。骨折したかもわからない』って足をさすっておった。怒りの半分以上は計算だった」
今岡の先頭打者ホームラン、アリアスの2打席連発、井川慶の完投で広島を破った7月8日、阪神にセ・リーグ史上最速のマジック49が点灯した。だが、独走状態は逆にプレッシャーを増幅させた。ある日、三宅が監督室を訪れると、星野は椅子にもたれかかってグタッとしていた。
三宅:どうしたん。具合悪いの?
星野:三宅さん、優勝できなかったらどうしよう。そしたら、もう日本におれんわ、ワシは。
三宅:何を言うとんじゃ。選手、コーチを信頼して、あんたは今まで通りやっとったらいい。
星野:そうかなあ。心配でなあ。もう寝れんのですわ。勝ったら勝ったで寝れん。