「行っても失点が戻ってくるわけじゃないですから。それなら、ここから先をどうするかを考える時間に当てたほうがいい。それに、やられた理由はピッチャーがいちばんわかっています。マウンド行って、かえってピッチャーに一大事だと思われても困りますし。カンの鋭いヤツいますからね、ピッチャーって」

　私の経験の中にも、失点した直後にマウンドに行こうとして、投手に「しっ、しっ」と追っぱらわれたことがある。

　後で聞いたら、「打たれてお前に来られたら、オレがかっこ悪いだろ。ダメなピッチャーみたいで」。

　投手とは、これほどに誇り高い存在なのか……とビックリしたことがある。

坂本がマウンドに向かう場面は…？

　カウント1－1や初球がボールになった瞬間に捕手・誠志郎がマウンドに走った場面。それも何度か覚えている。

「100％気持ちがバッターに立ち向かえていないなと思った時。こういう時がいちばん危険なんです。ガツンとやられてからじゃ悔いが残りますから、僕もピッチャーも。それと、逆に燃えすぎているなと感じた時」

　心の炎がユニフォームに引火すると、炎上につながる。そうならないうちに消火しておかないといけないのだ。

投手に声をかけるタイミングも坂本は独特だった？　©︎Kiichi Matsumoto

「それと、なんのピンチでもないのにピンチだと思って投げているような時ですね。たとえば5点リードして試合後半で、ランナーが2人出た。その場の景色はピンチに見えますけど、試合全体ではそうじゃない。若いピッチャーはその2人を返すまいとして3点取られたりしますから」

　高校の3年間、そして大学4年間。長い時間をかけて構築した捕手としての知恵を武器に、坂本誠志郎捕手はプロに挑んだ。

「2位指名、特に重くないです。順位どうこうは今だけですから。でも、僕みたいなタイプで、2位は驚きでした。木下（拓哉、法政大→トヨタ自動車、中日3位指名）さんのほうが先だって、決めつけていましたから」

現在は中日でスタメン捕手を務める木下は坂本とは対照的なタイプだ　©︎JIJI PRESS

　隆々たる体躯、地肩の強さ、一発長打のパワー。自分とは対照的な個性の、東京六大学の2年先輩の捕手だ。

「僕、ものすごく負けず嫌いなんで。自分より先に指名された19人には絶対負けたくないし、同じキャッチャーでも自分が持ってない要素を持っている人には負けたくない。それには、僕は僕の個性を最大限に発揮したキャッチャーにならないと」

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