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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「グラウンドで『坂本がいるな』と思われるようじゃ…」《38年ぶり日本一》阪神“扇の要”坂本誠志郎が語っていた「金本さんのすごさ」の真相
posted2023/11/23 17:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kiichi Matsumoto
今季、38年ぶりの日本一を達成した阪神タイガース。11月末に発表されるMVPには何人も候補がいる。チーム最多勝(12勝2敗)の大竹耕太郎、今季のブレイク頭で10勝を挙げた村上頌樹。野手なら絶対的リードオフマン・近本光司に“タイガースの4番”を全うした大山悠輔もいる。
そんな中、夏以降チームのレギュラーマスクをかぶり続けて、首位独走の流れを支えた坂本誠志郎の存在感と奮戦ぶりも特筆の価値があった。そんな坂本を学生時代に取材した筆者が、当時のインタビューを振り返る。(前後編の前編/後編を読む)
大学4年生の秋のことだ。
ドラフト直後だったから、善波達也監督(当時)に取材をお願いしたら、「高山じゃなくて、坂本なんですね……」と念を押された。
その年、阪神タイガースは1位で明治大・高山俊外野手を指名。2位で続けて、同じ明治大の坂本誠志郎捕手を指名していた。おそらく、ドラフト後の取材は、高山選手のほうに殺到していたのだろう。
しかし、私は、以前からずっと、「捕手・坂本誠志郎」と話がしてみたかった。
捕手の「匂い」というものがある。
人間は自己防衛本能で、無意識のうちに自分と同じ種類の人間を嗅ぎ分けている。以前、そんな話を聞いたことがある。そのメカニズムにちょっと似ているのかもしれない。
私も「捕手」の端くれである。捕手の嗅覚にしか感じることのできない捕手の匂い。レガースをつけ、プロテクターを装備し、マスクをかぶって捕手のいで立ちをしてさえいれば、その「匂い」は立ちのぼってくるのか? いや、違う。ただのユニフォーム姿で目の前を通り過ぎただけでも、オッと感じられるような、ある意味の「オーラ」。
明治大学当時の坂本捕手には、そんな、捕手になるために生まれてきたような、とても自然な捕手の「いい匂い」が漂っていた。
強豪校でスタメンマスクを被り続けてきた坂本の「心得」
彼は履正社高、明治大と、アマチュア球界の王道を歩みながら、その時間のほとんどでレギュラーマスクを託されながら過ごしてきた。つまり、常勝の強豪の中枢として、勝って当たり前のプレッシャーとの付き合いを続けてきた。
その熾烈な時間の中で、彼が培ってきた捕手としての心得を、じっくり聞いてみたかった。