- #1
- #2
マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
《38年ぶり日本一》阪神キャッチャー・坂本誠志郎が失点後にマウンドに行かない“納得のワケ”…「僕の場合はヘッドワークが勝負なので」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNanae Suzuki
posted2023/11/23 17:01
今季、夏以降はほぼすべての試合でスタメンマスクをかぶった阪神・坂本誠志郎。そのクレバーな思考は大学時代からだった
ブルペンでの投球練習。投げ終わった後の投手に対して、時間をかけて今日の復習と明日以降の予習をしている坂本捕手を何度も見ていた。
そして、リーグ戦の試合前。ブルペンの投球練習を受けた後の彼は、いつも投手と話し込みながらダグアウトに戻ってきていた。
「学生野球はリーグ戦ですけど、僕は意識の中でいつもトーナメントだと思ってます。人によっては、学生野球は『2勝1敗の野球』だって言いますけど、僕は今日ダメだったから明日、明日っていうのはNG。そこに必ず隙ができて、そのほころびはどんどん広がっていきます」
4年間7シーズン、その中で3回のリーグ優勝。
不動のレギュラーマスクを全うしてきた者の矜持だ。
投手の性格、みんなに見せない本当の姿…常に探っていた
「山崎福也(現・オリックス)さんや上原健太(現・日本ハム)は大型左腕なんで、小柄な部類で右投げの自分からはほど遠い存在なんですね。あの高さから景色を見ることもないし、左で投げられないので感覚もない。
こっちはわかっているつもりで送っているアドバイスが、実はピントはずれだったり、間違っていたりしていたかもしれない。だから、いつも探っていましたね。実はどういう性格なのか、みんなに見せていない本当の姿っていうんですか。それに、その日の体調とか気分とか」
捕手の朝一番の仕事、それは投手の顔色をうかがうことで、その日の調子を見計らうこと。つまり、投手の健康管理。そこが「リード」のスタートになる。
「リード」とは、投手の全人格に関わろうとする心だ。
「練習スタートの時の動き出しの様子を見ているだけでも、今日は乗っているかどうかが見当つくし、メシの時、監督やコーチから言葉をかけられた時の反応、表情。探っていこうとすれば、材料はいくらでもころがっています」
試合の中でも、投手の内面の変化を探りながら、捕手・誠志郎のリードがなされる。
「上原は2m近くもあるのに、すごく器用なんです。だから大事な場面とか、ストライクがほしい時とか、つい手先で投げてしまう。手先でヒュッと投げてしまえば、ストレートでもスライダーでも簡単にストライクがとれてしまいますから。でも、それだと速球が強いボールにならない。『背中で投げろ!』って、ずいぶん言いました。松井裕樹(現・楽天)みたいなイメージで」
失点の場面のほとんどで、捕手がマウンドの投手のところへ向かう。しかし、そんな時にも、捕手・誠志郎は動かない。