箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
《箱根予選会6位通過》立教大“消えた天才”は甦るのか? 三浦龍司でも、吉居大和でもなく…「最強世代」トップランナーだった男・服部凱杏のいま
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byYuki Suenaga
posted2023/10/16 17:03
中学時代から「最強世代」の呼び声も高かった現大4世代。その先頭を走る旗振り役のひとりだった服部凱杏はいま…?
ただ、その頃からまた走りに「感覚のズレ」が起きるようになっていった。
自分のイメージと体の動きが一致しない。思った通りの動きができない。その感覚は、今も服部を苦しめているという。
そしてその間に、かつては服部の後ろを走っていたはずの三浦や吉居、鈴木といった同期のライバルたちは、どんどん手の届かない世界へと走っていった。
「『悔しいな』という気持ちも最初はあったんです。でも、途中からもう尊敬の気持ちというか。『すご……』と思うだけみたいな。ここまでくるともう、過去の栄光とか、プライドとか言ってられないなという感じです。すごすぎて……」
一度頂点を極めた選手だからこそ、そこから振り落とされる苦しさは、勝ったことがない選手よりもはるかに大きなものだ。服部本人は飄々と振り返ってくれたが、人生の多くを懸けて手にしてきたプライドをかなぐり捨てるのも、相当の葛藤があったことは想像に難くない。
ただ、それでも服部は走るのを止めようとは思わなかったという。
その理由を尋ねると、少し考える仕草をしたあとで、こんな風に答えてくれた。
「うーん……やっぱりどこかで自分自身に期待しているんですよね。それは今でも変わらない。周りから見れば無謀に見えるのかもしれない。でも『すごいな』と思う反面で、客観的に『あいつらができるなら、自分だってできるはずだよな』という風に思っている部分もあるんです。だから、心が折れるとかはなかった。箱根についても、本戦は絶対に走るつもりでいるので」
「往路の主要区間を走れるようにならないといけない」
箱根本戦まで、あと2カ月強。
2年連続で予選会を上位で通過し、すでに「箱根常連校」に片足を突っ込みつつある立大で、予選会のメンバー外という立ち位置から、本戦の出場候補に滑り込むのは決して簡単なことではない。
それでも服部は、「1区、2区とか往路の主要区間で、上位で走れるようにならないといけないとは思っています」と、負けん気の強さも見せる。
かつて全国の頂点に立った天才ランナーの目は、土壇場でもまだまだ死んでいなかった。
諦めなければ、可能性は常に存在する――。
いつだって、ヒーローは遅れてやってくるのだから。