「上から2番目のBチームから最上位のAチームに上がりたくないという子もいます。『Aのあのプレッシャーの中ではできません』って。じゃあ、なぜ高校の野球部に入ったのかと。それなら野球を辞めたらいいじゃないのって思うんですけど、辞めないんですよ。Bは比較的楽しく、ちょっと空気を和らげながらやっているので、多分居心地がいいんでしょうね」

選手に挨拶をさせる理由

　朝日大での指導の日々を思い出していた。しぶとく対話を重ね、選手の特徴や個性の把握に努めた。練習前や終了後には、必ずクラブハウスを訪れ、挨拶することを義務づけた。

「声が聞きたいとかじゃなくて、表情を見るんです。彼らは多感な時期なので、表情を見ることで、悩んでいるとかSOSを出しそうな時は必ず声をかけてあげる。そのきっかけとなったのは朝日大学の2年間でした。だから、野球の指導者ですけど、メインは野球以外の指導ですよね。そういうところもちゃんとやらないと野球ができません」

高嶋元監督からのメッセージ

　地道な指導は、2021年夏に花開く。大阪府大会準決勝。履正社を相手に、延長14回タイブレークの末、5－4でサヨナラ勝ち。ついに2強の一角を崩した。決勝では大阪桐蔭を追い詰めながら、3－4のサヨナラ負けで準優勝。46年ぶりの聖地まであと一歩届かなかったが、古豪復活の爪痕は確かに残した。

　試合後、恩師の高嶋元監督から労をねぎらうメールが届いた。

「お疲れさんでした。3年で闘う集団を育てた事に、敬意を表します」

　あの時、母校を飛び出した決断は、間違ってはいなかった。

「指導者を目指すうえで、高嶋先生の影響は、間違いなくあるでしょうね。情熱的で、生徒と一緒に切磋琢磨していく指導はすごく印象に残っています。父親以上の鬼でしたけど、自分も高校の時は高嶋先生と日本一になりたいという思いだったので、僕もそう思わせられるような指導をしていきたいです」

©Yu Saito

しんどい生徒にこそ、何かきっかけを与えたい

　高校野球の監督、そして一人の教育者として、今でも「いろんな葛藤がある」という。野球部の選手たちをルールで縛ることに疑問を抱いたこともあるが、「そうすると何も言わない指導者がいい指導者になってしまう。だったら僕がここにいる意味はない」と悟り、生徒と正面から向き合ってきた。その根底には「助けてあげたい」という思いがある。

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