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「日本代表には、正直めちゃくちゃ入りたい」“ズタボロに心が折れた男”はなぜJ1で覚醒したのか? 日本国籍を取得した朴一圭33歳の逆転人生
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byNumberWeb
posted2023/07/18 11:03
サガン鳥栖に所属するGK・朴一圭(パク・イルギュ)33歳
3年生になり東京朝鮮高の正GKの座を射止めた朴は、DF陣がビルドアップに苦慮していた試合中にふと「俺がボール回しに参加したほうが効率いいんじゃないか?」と感じ、ピッチ上で実践していくことになる。キック練習を繰り返すうちに、長短の「人につけるパス」の精度はフィールドプレーヤーのそれを凌駕していた。
朴が当時を振り返る。
「たぶん最初は無意識だったんですけど、いざやってみると想像以上にうまくいったんですよね。ピグとめちゃくちゃボールを蹴り込んだおかげで、キックには自信がありましたから。監督も『やりたいなら、やったらいいんじゃないか』という感じで見守ってくれました。いまにして思えば、あれが僕のプレースタイルの原点かもしれません」
ドトールでバイトも…“飛び級移籍”で覚醒するまで
2008年に朝鮮大学校に進学して以降、“恩師”と慕うGKコーチの野口正彦氏との出会いもあり、朴は大きく成長を遂げた。キック精度や足元の技術という強みに加えて、シュートストップをはじめとしたGKの“必修科目”がブラッシュアップされたことで、プロへの道を具体的に意識するようになる。だが、「プロにいける」という手応えを頼りに複数のJ2クラブの練習に参加したものの、入団には至らなかった。
「練習に参加させてもらったクラブのなかでも、大分トリニータでは自分なりにいいパフォーマンスを出せたと思います。それでも、結果はついてきませんでした。ただ、『やれるな』って手応えだけはあったんですよ。『やれるのに、俺』って。諦めなかった、というよりも、諦められなかったんです」
朝鮮大学校を卒業した2012年、JFL(当時)の藤枝MYFCに入団した朴だったが、チームの要求にプレーで応えられず、「ズタボロに心が折れた」という。1年でカテゴリを下げて関東1部(当時)のFC KOREAに移籍し、練習の合間には「ドトールコーヒー」でアルバイトをした。
「それでも結局、諦められないんですよね。傍から見たら“夢を追いかけるイタいやつ”かもしれませんけど、サッカーを嫌いになって終わりたくなかったし、上を目指す気持ちも捨てきれなかった」
FC KOREAでメンタルを立て直した朴はJ3に昇格した藤枝に1年で復帰し、正GKに抜擢される。さらに2年後の2016年にFC琉球に移籍すると、2018年のJ3優勝とJ2昇格に貢献。J2でのプレー経験がないままJ1の横浜F・マリノスに“飛び級移籍”を果たし、ポステコグルー監督の求める戦術にフィットして2019年のリーグ優勝の原動力となった。