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JリーグPRESSBACK NUMBER
「日本代表には、正直めちゃくちゃ入りたい」“ズタボロに心が折れた男”はなぜJ1で覚醒したのか? 日本国籍を取得した朴一圭33歳の逆転人生
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byNumberWeb
posted2023/07/18 11:03
サガン鳥栖に所属するGK・朴一圭(パク・イルギュ)33歳
なぜ、朴は一気にステップアップすることができたのだろうか。本人は「J3のころから、J1でプレーするイメージはずっと持っていた」と明かす。
「正直、マリノスのクラブ規模や設備のすごさには面食らいました(笑)。でも、プレー面で『こんなシュート止められない』と思うことはなかったし、ボス(ポステコグルー監督)も『どんどんチャレンジしろ』と背中を押してくれた。準備ができていたので、昔みたいに心が折れることはありませんでした」
前年までJ3でプレーしていたGKが、30歳になる年に突如としてJ1で脚光を浴びる――そんな異例のキャリアには、在日コリアンという出自とは無関係なインパクトがあった。
日本国籍を取得も…なくならない“差別的投稿”
2022年10月に日本国籍を取得した朴にとって、「在日」というバックボーンは決して小さなものではないだろう。だが、朴は自身のルーツが在日社会にあることを得意げに語ったりはせず、かといって卑屈になるわけでもなかった。
朴にとっても、東京朝鮮高の同級生である「ピグ」にとっても、同校を中退した筆者にとっても、あるいは朝鮮学校と関わりのないまま生きる多くの在日コリアンにとっても、“在日として生まれたこと”は、なによりもまず選択の余地のない“事実”だった。ことさらに誇らしいものでもなければ、その属性だけで誰かに値踏みされる道理もない。
2023年2月。朴に関する1本の記事が、ウェブ上のサッカーメディアに掲載された。朝鮮大学校時代の野口コーチとのエピソードについて、朴がYouTubeで「自戒と反省を込めて語った内容」を書き起こしたものだった。
発言の一部を切り取られるかたちで扇情的な見出しをつけられたその記事には、意図がどうあれ、差別を扇動する効果があった。外部配信先のポータルサイトには100件を超えるコメントが寄せられ、法務省が定義するところの「ヘイトスピーチ」(特定の民族や国籍の人々を、合理的な理由なく、一律に排除・排斥することをあおり立てるもの/特定の国や地域の出身である人を、著しく見下すような内容のもの)も少なからず含まれていた。また、SNS上でも同様の反応が散見された。
努力を重ねてキャリアを切り拓き、その過程で「日本人」として生きることを選んでも、偏見と憎悪にまみれた言葉は容赦なく心を切り刻んでくる。それを目にした朴が、どんな痛みや悲しみを味わったのかは本人しか知り得ない。だが、「日本人」になったからといって差別が消滅するわけではないことは、ひとまず明言しておきたい。
それは紛れもなく、2023年を生きる「在日」が日常的に直面する現実のひとつだった。
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