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JリーグPRESSBACK NUMBER
「日本代表には、正直めちゃくちゃ入りたい」“ズタボロに心が折れた男”はなぜJ1で覚醒したのか? 日本国籍を取得した朴一圭33歳の逆転人生
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byNumberWeb
posted2023/07/18 11:03
サガン鳥栖に所属するGK・朴一圭(パク・イルギュ)33歳
同級生が語る「ここまでの選手になるとは…」
同世代のトップクラスとの大きな差を、朴はどのように埋めていったのか。
東京朝鮮高時代、毎日のように朝練をともにしていた同級生にも話を聞いた。「ピグ」という愛称で呼ばれていた同校サッカー部のOBは、朴の人柄についてこう語る。
「なんだろうな……。僕が知るかぎり、シンプルに“ものすごくいいヤツ”でした。僕みたいに周りから軽んじられがちだった同級生とも対等に向き合うし、人のいいところを見つけて褒められる。ずっと笑顔でしたけど超負けず嫌いで、曲がったことは絶対に許さない。持ち上げすぎですかね? でも冗談抜きで、パギほど気持ちのいい人間はいないですよ」
朴とピグは毎朝7時から8時半まで、ほとんど無人に近い東京朝鮮高のグラウンドでボールを蹴り続けた。左右両足を使って、ロングパスやミドルレンジのパスを繰り返す。中盤の選手だったピグは、「GKにこんなにキック練習が必要なのかな?」と疑問に思っていたという。
「僕に付き合ってくれてたのかなぁ。もともとパギは足元がうまかったんですよ。GKなのに、ドリブルとかもフィールドの選手並にできましたから」
何千回、何万回とボールを蹴り込むうちに、最初は乱れがちだったロングキックが、ピッチの横幅を目いっぱいに使っても相手の足元に収まるようになった。
彼らが朝練を始めた高校2年生のころ、朴はAチームの控えGKにすぎず、ピグに至ってはAチームにも入れなかった。必ずしも強豪校とはいえなかった当時の東京朝鮮高でレギュラーでさえない彼らにとって、おそらく「プロ」は現実的な目標ではなかっただろう。しかし、そんなことは問題ではなかった。未来がどうであれ、ひたすらボールを蹴り続ける。それだけだった。
やがて、1学年後輩の安柄俊(アン・ビョンジュン/現水原三星ブルーウィングス)も朝練に顔を出すようになった。ピグは「パギといい、ビョンジュンといい、一緒に朝練をした2人はプロになったのに、僕だけなれなかったんですよ」と笑いながら証言する。
「正直、ビョンジュンについては『こういう選手がプロになるんだろうな』という予感はありました。でも、パギがここまでの選手になるとは思わなかった。プロになったと聞いたときは、僕もすごくうれしかったです」