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「楽しくないのに、なんでやらないといけないんだろう」伊藤大海が明かしたWBC後の“燃え尽き症候群”…折れかけた心を支えた元チームメートの言葉〈復活秘話〉
text by
中田愛沙美(道新スポーツ)Asami Nakata
photograph byNanae Suzuki
posted2023/06/28 11:03
「燃え尽き症候群」を乗り越えた伊藤大海
近藤から届いたメッセージ
時を同じくしてWBCで一緒にプレーした近藤健介(ソフトバンク)から、「大丈夫か」と長文のメッセージが届いた。4学年上の先輩とは、21年の東京五輪でともに日の丸を背負ってから急接近。野手目線で投球のアドバイスを送ってもらっていた。いつもと違う伊藤の様子を心配し、気に掛けてくれたのだ。
「2人の存在は大きかったですね。打たれた時に、切り替えようというか、それよりひどいことはもうこの先ないと思えました。気持ち的にも技術的にも全部において、これ以上、底はないと思いましたね。死ぬわけではないので」
叱咤激励を受け、モヤモヤは吹っ飛んだ。次の登板に向けて、動き出した。「投げ込みはしない」がモットーの伊藤が、フォーム修正のため4日連続でブルペン入り。休日だった登板前日も「予定になかったけれど、朝起きて不安だった」と投球練習を行った。
無我夢中で野球と向き合い、失っていた情熱を取り戻した。敵地・ベルーナドームで行われた5月2日の西武戦。ラストチャンスと位置づけたマウンドで、7回1失点と好投し、待望の今季初勝利を挙げた。
「今日、やっとぐっすり眠れるかな」
近藤、石川亮ら支えてくれた人たちと連絡を取り合い、喜びを噛みしめた。
苦闘の先に見えたもの
プロ1年目から、2年連続2桁勝利をマーク。先発ローテーションの柱を担ってきた伊藤にとって、プロ入り後初めての不調だった。悩み、苦しんだ1カ月を乗り越え、道産子右腕に“らしさ”が戻ってきた。
「今はあれしたいこれしたいと“欲”が出てきました」
計測不能の超スローカーブを投げたかと思えば、突然サイドスローを披露する。遊び心を交えたピッチングは、持ち味の1つだ。今シーズンはどんな秘策を繰り出すのか。トレードマークのえくぼを浮かべ、伊藤はメラメラと闘志を燃やしている。
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