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「楽しくないのに、なんでやらないといけないんだろう」伊藤大海が明かしたWBC後の“燃え尽き症候群”…折れかけた心を支えた元チームメートの言葉〈復活秘話〉
text by
中田愛沙美(道新スポーツ)Asami Nakata
photograph byNanae Suzuki
posted2023/06/28 11:03
「燃え尽き症候群」を乗り越えた伊藤大海
「散々でした…睡眠欲も食欲もない」
栄光から一転、アメリカから帰国した伊藤を待っていたのは眠れない日々だった。ベッドで横になり、目を閉じてもなかなか寝付けない。気力を失い、“燃え尽き症候群”のような状態に陥った。当時の心境を苦笑いしながら振り返る。
「あの(WBCの)舞台で燃え尽きることができないなら、優勝できていないんですけどね。帰ってきてからは気持ちが全然、乗らなかったです。私生活も散々でした。欲がないから、睡眠欲も食欲もない。“無”でしたね。あそこまで感情がなくなって、まさに“無”になったというのは今までありませんでした」
狂い始めた歯車
WBCの戦いを終えると、休む間もなくファイターズの練習に合流した。2軍での登板を経て、開幕2カード目4月5日のロッテ戦(ZOZOマリン)で今季初登板に臨んだ。白星は付かなかったものの、5回3安打無失点と試合を作った。
「そのままの緊張感でなんとなくやっていましたね」
上々のスタートを切ったかのように思われたが、徐々に歯車が狂いはじめる。
「ZOZOでの試合のあとから、ドーンと疲れが来たんです」
2度目の先発マウンドは、同12日のソフトバンク戦(ペイペイドーム)。WBCで共にプレーした元同僚の近藤健介に勝ち越し弾を浴びるなど、6回2/3を投げて8安打5失点と今季初黒星を喫した。
自他ともに認める負けず嫌いだが、不思議と悔しい思いが湧いてこなかった。
「落ち込みもしなかった。悔しい感情がなかった自分が悔しかったですね」
そんな自分に、違和感を覚えた。