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伊藤大海は“ファイターズジュニア不合格”で変わった…たこつぼ漁師の父が語る練習の日々「最後の一球に、大海はいつもスライダーを」
posted2023/03/04 17:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
Takuya Sugiyama
ただでは終わらぬ日韓戦。“事件”は東京五輪準決勝、2対2の同点で迎えた7回表2死走者なしの場面で起きる。
韓国の打者が球審に注文をつけ、試合が中断。日本の3番手、伊藤大海が滑り止めのロジンをつけすぎ、ボールが見づらいと言い出した。ロジンをつけることはルール上認められており、言いがかりに近い。
だが渦中の伊藤は平然としたもので、ゲームが再開されると「それならこっちも遠慮なく」とばかりこってりとロジンをつけ、再開後の一球を投じる。リリースの瞬間、いつもよりたくさんの白い粉が舞った。
伊藤は韓国を抑え込み、そして8回裏、山田哲人の殊勲打が飛び出す。3日後、侍たちの胸に金メダルが輝いていた。
“#追いロジン”でネットのトレンドとなった再開直後の一球を、中断中から予感した人がいる。伊藤清光さんと正美さん。そう、伊藤の両親である。
「あのときは、つけると思ったよね」と父が言えば、母も「つけると思ったときには、あの子、もうロジン触ってた」と苦笑する。なぜ、わかるんですか? とたずねると、
母「そういう性格なんです。やめろと言われたら、逆にやろうとするところがあって」
父「だから俺はね、ロジンもだけど、次の一球を厳しいコースに投げるんじゃないかと思ったんだよね」
たこつぼ漁師の家庭に生まれて
遠くに海鳴りが聞こえる。ふたりが暮らす北海道鹿部町は噴火湾の湾口に近い漁師町。学校の校庭には野生の馬が出ることがあり、山あいには鹿や熊も出るという。この町の3代続くたこつぼ漁師の家に生まれた伊藤は早くも幼稚園児のとき、七夕の短冊に「プロ野球選手になる」と力強く書き込んだ。